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【書評】掏摸(スリ)/中村 文則

 

掏摸(スリ)

掏摸(スリ)

 

 

概要

 2010年の第4回大江健三郎賞の受賞作品です。英訳版である 『The Thief』は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、2012年のベスト10小説に選ばれ、2013年のロサンゼルス・タイムズ・ブック・プライズにもノミネートされました。海外で高い評価を受けている作品だと言えます。

 そんな流れを受けてか、文庫化され、発売当初は大々的に宣伝されていたので買ってみました。

 

おすすめポイント

 スリリングに話が展開されていきます。先へ先へと読み進めていけます。しかし、提示されているテーマが難しいです。かなり哲学的な内容だと感じられました。この2つが両立しているところがすごいです。

 

感想

 華麗なスリの描写のシーンが楽しいです。ホントにそんなことできるのか?って思っちゃいますけどね。

 途中から、哲学的だなぁと感じると思います。作者解説では『残酷な運命の中で生きる個人の抵抗を書いた物語』としてあります。これが主題なんだなぁっていうのはなんとなく読んでいて分かります。「運命」というスケールの大きなものを相手にしたお話でした。

 だから、文庫版についている帯の煽り文句『絶対悪VS天才スリ師』っていうのは間違いじゃないんだけど、なんか違うなぁって思ってしまいました。痛快なアクションを期待して読むと、ん?ってなると思います。正義が勝つわけではありません。

 帯で強調すべきはそのポイントではないのではないか、と思ったわけです。確かに作中で発生するイベントとしては『絶対悪VS天才スリ師』であるわけですが、その対決が主題ではないはず。まぁ買ってもらうための煽り文句ですから、面白そうなものをつければいいと思いますが。

 考えさせられる内容ではありますが、実際自分に置き換えると何をどうやって考えればいいのかがいまいちつかめませんでした。残酷な運命に自分が対峙した時、どのような心境でいられるか?ってことなのでしょうか。

 テンポよく進むところは進んで、ゆるやかなところはゆるやかで、読む分には楽しい作品でした。