【異形の将棋風バトル】ダークゾーン/貴志 祐介
概要
プロ棋士を目指す主人公が異次元世界「ダークゾーン」でのバトルに突如巻き込まれるというお話です。
おすすめポイント
ダークゾーンでのド迫力かつ戦略的なバトルは少年のハートをくすぐられます。男子はみんな大好きなテーマではないでしょうか。しかしバトルだけではないというのがこの作品のすごいところだと思います。
感想
あらすじをちょっと読んで、これは面白くないわけがないと思い読みました。将棋が好きなんですよね。貴志さんの作品は「青の炎」に続いて2作目でした。
予想通り、ものの数ページで引き込まれ、続きが気になって仕方がなかったです。読んでいるときは常に心臓がどきどき。久しぶりに興奮する本に出会いました。
まずはダークゾーンでの戦いが圧倒的におもしろいです。局を経るごとに深みを増していく戦術、読みあいがたまりません。ルールに理不尽なところが一切ないのもよかったです。
そしてダークゾーンの戦いだけでなく、そこに過去の話が折り重なって、すごく深みのあるお話になっています。もちろん仮想空間の戦いはすごく面白いですが、それだけではないのです。
過去の話が明らかになるにつれて、物語の全容が見えてきます。これはハッピーエンドになるわけないだろうなと覚悟してしまいます。しかし暗い結末が見えていても、ページをめくる手が止まらないのが貴志さんのすごいところでしょうか。ますます白熱する戦いに夢中になってしまいます。
現実に起きたことがすべて明らかになると、ダークゾーンでの設定が現実を反映したものであるということに気が付きます。直接書かれていることもありますが、書かれていないこともあるのでしょう。
なぜ負けた側のキングの目が潰れていくのかちょっと不思議に思っていましたが、これも現実での塚田の状況が暗示されているのですね。
最後に疑問が投げかけられます。結局、主人公にとって現実と仮想空間はどちらが良いものだったのか。本人は恋人といられる方が幸せだったかもしれませんが、だんだん人間を駒のようにしか扱わない主人公を見ていると、見てるこっちがつらくなってきます。現実を受け止めて生きていってほしいと思う反面、辛すぎる現実から目を背けたくなる気持ちもよくわかるのです。