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【白熱の絵画バトル】楽園のカンヴァス/原田マハ

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

楽園のカンヴァス (新潮文庫)

 

概要

 2013年の本屋大賞の第3位に選ばれた作品です。絵に隠された謎を追う美術ミステリー。真贋判定のバトルが繰り広げられます。作者の原田マハさんは作中にも登場するMoMAニューヨーク近代美術館)に勤務していた経験をお持ちだそうです。

おすすめポイント

 熱い心理戦、そしてどんでん返しが展開され、非常にスリリングでした。もちろんミステリーとしても一級品だと思います。何より、作者の絵に対する情熱がこれでもかと伝わってきます。

感想

 僕は美術や絵画にあまり興味はありませんが、ものすごくワクワクしました。主人公たちの興奮度合いが、ビリビリ伝わってくるからかもしれません。まるで彼らと一緒に絵を見ているかのような気持ちになります。

 彼らのように美術を専門に研究する人たちは、僕らとは違った見方で絵を見れるのでしょうね。それが何だかうらやましくなりました。絵の中の世界に迷い込むぐらい、絵に熱中してみたいものです。絵画をただの絵としてしか見ることのできない僕らは、もしかしたら人生を損しているのかも・・・。

 絵の勉強になります。主に登場する画家はルソーとピカソであり、実在する絵画がいろいろと作中に出てきます。絵画そのものを載せることはしていないので、逆にどのような絵なのか気になってしまいます。スマホ片手に、画像検索をかけながら読んでいました。どこかで見たような絵もあれば、初めて目にする絵もたくさんありました。少しだけ美術の世界に足を踏み入れた気になれます。

 終わり方が非常に気に入りました。それまで張られていた伏線を一気に回収しつつ、「絵」にとっても、ティムとオリエにとっても最高の終わり方になったのではないでしょうか。とてもすっきりしました。ティムもオリエも、一途にルソーのことを研究し続けてきたわけです。その情熱は二人を裏切らなかった。彼らも、バイラーも、絵を愛する素晴らしい人格者なのだなぁと思いました。

 最初の章で、几帳面に伏線が示されていたのです。しかし僕はほとんど気づけませんでした。それはなぜかというと、物語が面白かったので、伏線として検討する気にならなかったのだろうと思っています。オリエもの子供がハーフっぽい顔立ちをしているのも、全部繋がっていたわけですね。

 まんまと騙されたわけですが、伏線を必要以上に勘ぐらなくてよかったかなと思っています。それは作品の面白さを削ぐ行為になってしまうのではないでしょうか。作者になすがままに騙される方が僕は好きです。作者が考えぬいた、最高のタイミングで謎が明かされる方が、驚きも感動も大きいですから。