【ミラクルのない復活】晴天の迷いクジラ/窪美澄
概要
「ふがいない僕は空を見た」でデビューして一躍有名になりった窪美澄の作品。この作品はそれに続く2作目です。デビュー作と同じく、絶望の淵に立たされた人たちが主人公。窪さんの描く絶望はどうしようもないほど重いものでありながら、リアリティを持っているので恐ろしいですね。
おすすめポイント
何らかのミラクルが起きて、絶望の淵から救われるという単純な話ではありません。あくまで現実的です。でも、現実感があるからこそ、読者の心にメッセージが届くような気がします。
感想
深い絶望の中にかすかな光を見出そうとするところが「ふがいない僕は空を見た」と似ているなぁと思いました。どうしようもないほどの絶望に打ちひしがれた3人。それぞれの物語は、読んでいて鬱々とした気持ちになります。それぐらい苦しい境遇に耐えています。耐えていたのですが、途中で折れてしまいます。あんなに絶望的な状況には、耐えられるわけがないです。
第1章の「ソラナックスルボックス」で取り上げられるのは、いわゆる社畜のデザイナー。なかなかタイムリーな話題です。主人公は仕事によってうつ病にまで追い込まれ、クスリなしでは生きられなくなってしまいました。
第2章の「表現形の可塑性」では若くして母になってしまい、我が子の虐待、しまいには逃亡を経た人間の苦悩が描かれます。かなり衝撃的でした。子どもという悪魔。子育てがどれほど大変かを知りました。
第3章の「ソーダアイスの夏休み」は過保護に苦しむ女子高生が主人公。姉が病気で赤ちゃんの時に亡くなってしまい、望んでもいない過保護に悩みます。これも顔をしかめたくなるお話でした。だれが悪いわけでもないはずですが・・・。
第4章の「迷いクジラのいる夕景」では、タイトルにもなっている「迷いクジラ」が登場します。ただ、3人が抱えている苦しい状況がラストで劇的に改善するミラクルは起きません。しかし、3人を少しだけ前向きな気持ちにするのは、今まで意識してこなかったことです。それに気づいていく3人の様子を見ると、なんとかなるだろうと思えてくるから不思議です。あの3人はこれからもなんとかやっていける、と。じんわりと温かい気持ちになれます。