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【幸福は再生する】まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

 

概要

 第135回直木賞受賞作品です。シリーズ化されており、「まほろ駅前」と名のつく続編・番外編が幾つか出版されています。便利屋を営む多田と、元同級生の行天の奇妙な交わりを描きます。

おすすめポイント

 とても面白く、さらに心に響く本でした。ちぐはぐな二人の絡みが楽しいです。映像化作品から入った人は瑛太さんと松田龍平さんで再生されるのでしょうか。しかしそれだけでは終わりません。「愛情」に関する深い洞察が印象に残る傑作だと思います。

感想

 過去の経験に縛られ、大きな影響を受けてしまっている点は、ふたりは似た者同士。便利屋の仕事を通して、ふたりの過去が明かされ、抱えている後ろ暗さの本質が見えます。

 名言のオンパレードだなぁと思いました。自然な流れで登場人物から発せられる言葉に、はっとさせられます。
「だけど、まただれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。そのチャンスは残されてる」
「はるのおかげで、私たちははじめて知ることができました。愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうことだと」
これらの言葉に代表されるように、愛情を与えるとはどういうことかが、繰り返し投げかけられます。愛情をもらえなかったとき、または与え損ねたとき、次はうまくやることができるのでしょうか。

 多田が抱える後悔はホントにリアリティがあります。
「いまならば多田も、自分がどんなに愚かだったかわかる。だがそのときは、信じるという危うく美しい行為が、いつのまにか怒りと絶望に転じていたことに気づけなかったのだ」
「愛していると告げるばかりで、妻にどう思われているか想像できなかった。自分があらゆる意味で怠慢だと気づいた時には、取り返しがつかないほど全部が壊れてしまっていた。」
浮気されたら僕もこんな感じになってしまいそうです。多田の心の傷は、意外と普遍的でもあると思います。

 行天と交わり、北村の依頼を受けることで、多田は過去を受け入れる兆しを見せます。
「知ろうとせず、求めようとせず、だれともまじわらぬことを安寧と見間違えたまま、臆病に息をするだけの日々を送るところだった。」
と気づくのです。これもさらっと書かれていますが、すごい言葉ですよね。結局、人は人を必要としているということでしょうか。

 そしてラストの
「幸福は再生する」
というフレーズが発せられます。きっと多田も幸せになってくれるだろうと、明るい気持ちになります。絶妙の終わり方ですね。

 

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