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【少し不在】凍りのくじら/辻村深月

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

 

概要

 誰といても、自分が「少し不在」だと感じてしまう女子高生、理帆子が主人公。度重なる不幸に見まわれながらも、とある「光」のおかげで自分の人生を歩んでいけるようになります。

おすすめポイント

 理帆子は周りの人間を1歩引いたところから冷静に分析します。どうも当事者になれない性格。自分も少なからずそういう側面を持っている、という人は意外と多いはず。物語中で理帆子が経験するように、その側面が薄れるきっかけになるかもしれません。

感想

 解説には理帆子が「万人の共感を誘う主人公ではない」と書かれてしましたが、個人的には共感できる人は一定数いるのではないかと思いました。進学校に通う、頭の良い彼女。他の友だちを見ながらこう考えるのです。

『人間は絶望から自殺することはそうそうないけど、退屈や暇は確実に人間を殺すよな。これは私の持論だ。ここでもそれが当てはまる。あんたたちはみんな、頭だけよ過ぎてきっと暇なんだ。 』

 なんとまぁ冷静。確かに、冷静すぎて怖くなる部分も有るのです。このセリフは「共感を誘う主人公」のセリフではないですね。

『心の奥底に、人として最低の欲求が蠢いている。私は、彼が堕ちていくところが見たい。 』

 若尾も恐ろしいキャラでした。そして何より彼を見る理帆子の目が怖い。彼を見つめることで、理帆子は自分を知っていきます。少し長いですが、このセリフがこの二人の間柄を、そして物語の核心を表している気がします。

『私は確かに人を馬鹿にしすぎる。あんたと同じ、人を人とも思わない個性をしている。だけど違う。私は羨ましいんだ、美也たちが、大好きなんだよ。人間が大好きなんだよ。そこに行けない自分のことが、大嫌いなんだよ。 ああ、そうなんだ。若尾の声を聞いて、今初めて気づく。自覚できる。私はきちんとその場に存在して、そこで生きている人たちが怖い。気後れしている。だからそこに行けないし執着できない。けれど若尾だけが、この男だけが違った。  常に理想主義を生きるコイツは、私と同様にこの世界に不在だ。だから馬鹿にできた。私に劣る者だと、彼にだけは執着できた。カワイソがるのは、自分より低い位置に立つ者に対する慈悲の感情。私の恋の盛り上がりは、全てそこに起因する。だから私は若尾だったんだ。  』

 ラストは怒涛の勢いだったので、ラストシーンでの理帆子の心情の変化を細かく知ることはできません。しかし、彼女はなんとか「不在」の状態を脱せられたのですね。

 ドラえもんのエピソードが何回か登場しましたが、残念ながら僕はほとんど見たことがありません。そこが少し心残りでした。ドラえもんに慣れ親しんだ方なら、もっと楽しめる作品なのではないかと思いました。

 郁也がなぜしゃべらなかったのか。これはなんだか難しい話でした。何事にも耐えるように言われたからしゃべらなかったのか。うーん。なんかしっくりきませんでした。

 最後のシーン。郁也の新しい個性ってなんでしょうね。答えとかあるのでしょうか。個人的には「スコシ・不敵」あたりがいいのではないかと思いましたが。どうなんでしょうね。

 

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