【見つめすぎた破滅】人間失格/太宰治
概要
言わずと知れた、太宰治の代表作です。太宰治の自伝であり、遺書でもある作品と言われています。
おすすめポイント
人間についての深い洞察と、それゆえの身の破滅。何か、ビシビシと訴えかけてくるものがあります。
感想
面白くなかったとしても、教養として読んでおこうと思っていました。しかし実際に読んでみて、月日が経っても名作と言われるからには名作たる理由があるのだなぁと思いました。それを言葉にするのは難しいと思いますが、感じたことを書いておこうと思います。
まず気になったのはこの言葉。
『あざむき合っていながら、清く明るく朗らかに生きている、あるいは生き得る自信を持っているみたいな人間が難解なのです。』
人間を信じることができず、幼少期から道化を演じる主人公。鋭い言葉です。太宰治自身がこんなことを考えていたとするなら、とてつもなく生きにくい人生を歩んだ人ですね。
『弱虫は、幸福さえおそれるものです。綿で怪我をするんです。幸福に傷つけられる事もあるんです。』
こんなこともさえも言ってしまうなんて。幸せすぎて怖いという感情は分からなくもないですが、ほんの少しの幸福さえ恐れているような書き方でした。
『世間。どうやら自分にも、それがぼんやりとわかりかけてきたような気がしていました。個人と個人の争いで、しかも、その場の争いで、しかも、その場で勝てばいいのだ、人間は決して人間に服従しない、奴隷でさえ奴隷らしい卑屈なシッペがえしをするものだ、大義名分らしいもの称えていながら、努力の目標は必ず個人、個人を乗り越えてまた個人、世間の難解は、個人の難解、大洋は世間でなくて、個人なのだ、と世の中という大海の幻影におびえる事から、多少解放させられて、以前ほど、あれこれと際限のない心遣いする事なく、いわば差当たっての必要に応じて、いくぶん図々しく振る舞う事を覚えてきたのです。 』
この世間についての文は少し消化不良気味ですが、何やら重要な心情の変化だったようです。世間は単に個人の集合体であり、取り立てて恐れるものではない、と考えを改めたのでしょうか。
終盤、主人公は酒と薬に溺れていきます。自業自得と言ってしまえばそれまでなのですが、人間というものを真摯に見つめ過ぎた結果なのではないかと思いました。罪についての記述が多い終盤は、なにか鬼気迫るものがあり、ページをめくる手が止まりませんでした。強烈な問いかけをされた気分です。
『堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、そうしてここに連れてこられて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、廃人という刻印を額に打たれることでしょう。人間、失格。もはや、自分は、完全に人間でなくなりました。 』
そして、タイトルに繋がるこの文。「人間」と「失格」の間には読点があるのですね。この文脈でこの言葉のチョイス。文才とはこういうことを言うのでしょうか。完全に打ちのめされている主人公の様子がありありと伝わってきます。
この作品から、僕は何を学べるのでしょうか。正直、まったくわからないです。単純に、惹きつけられました。他の小説にのめり込むのと同じように、この作品は面白かったです。予想外でした。びっくりしました。