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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【自殺したのは誰?】冷たい校舎の時は止まる/辻村深月

冷たい校舎の時は止まる (上) (講談社ノベルズ)

冷たい校舎の時は止まる (上) (講談社ノベルズ)

 

概要

 辻村深月さんのデビュー作品です。学校に閉じ込められてしまった高校生たち。昔起こったある事件に関する記憶がなくなっていることに気づき、そして・・・。学園モノであり、ホラーであり、ミステリーでもあります。ホラーに慣れていない人は中盤に苦労するかもしれません。ネタバレされると面白さ半減なので気を付けましょう。

おすすめポイント

 非常によくできたミステリーです。また、主人公たちはぞれぞれに、大小は様々ですが心の闇的なものを抱えています。一人一人の人間味あふれる過去に触れて、誰かひとりには共感できるのではないかと思います。

感想

 序盤で提示される「自殺したのは誰か」という謎。これが分かりそうで分からないのです。非常にもどかしいです。候補は徐々に絞られていきますが、いろいろな伏線が放置されたまま、物語が突っ走って行ってしまいます。

 僕はホラーが嫌いなので普段あまり読んでいません。途中でなかなか恐ろしい場面が出てきて、それがけっこう堪えました。しかし、挫けず最後まで読めたのは、やはり謎が気になったからでしょうね。

 ご丁寧に、解決編に入る前に再度問いかけがあるのです。自殺したのはだれか、そしてどうしてそう思うのか。「ここまでで全部ヒントは出しましたよ」ってことです。ニクイですよね。挑戦状をたたきつけられるのですが、まったく分からないのです。

 そして明かされる真実。いろいろな情報が断片的に出てきて、その度に混乱しならがも、絡まった糸がほぐされていくような感覚を味わいました。正直、あの答えはちょっとずるいなぁと思いました。まぁ問いに対する答えとしては必要十分なのですが・・・。

 それよりも「やられた」という気持ちが強かったのは菅原でした。こちらは、思い返してみればヒントはたっくさんありました。問題児という設定、ピアス、校舎の建て替え、たばこなどなど。そしてヒロっておまえだったんかーい!ってなりますよね。妙に回想シーン長いなぁと思ったら。あぁ悔しい。

 結局すべては丸く収まり、残っている謎もなく、終わり方はどこか爽快。上手く丸め込まれた気分です。深月が春子を許し、そして自分自身を許したとき、本当の終わりがくるのでしょう。その日まで、友情で結ばれた彼らは寄り添いあえる。素晴らしい絆ってやつですね。

 辻村さんの作品間のつながりについても少し触れておきます。といっても、僕が気づいたのは「光待つ場所へ」だけです。きちんと名前も出てきます。清水あやめ、鷹野博嗣、藤本昭彦が出てきますよ。特にあやめが主人公の「しあわせのこみち」が好きですね。時間があるときにすべてをまとめてみたいものですね。

 1つ作品を読むと、前に読んだものを読み返したくなる。そんな素敵な作家さんです。


【書評】光待つ場所へ/辻村 深月 - ネットワーク的読書 理系大学院生がおすすめの本を紹介します