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【仰天密室トリック】硝子のハンマー/貴志祐介

硝子のハンマー (角川文庫 き 28-2)

硝子のハンマー (角川文庫 き 28-2)

 

概要

 『防犯探偵・榎本シリーズ』第1作です。このシリーズは大野智さん主演で「鍵のかかった部屋シリーズ」としてドラマ化されました。弁護士の青砥と防犯ショップを営む榎本のコンビが活躍するミステリーです。

おすすめポイント

 仰天トリックです。自分が今まで読んだミステリーの中で、一番奇想天外なトリックでした。「こんなのありかよ」と心の中で叫んでしまいました。こんな方法を思いついてしまう貴志祐介さんの頭脳にあっぱれです。読んでみようかなと思ったら、ネタバレにはお気をつけください。

感想

 序盤ではヒントらしき情報がたっくさん出てきます。それはもう、たくさんなのです。こんなにヒントを出されては、さすがに答え合わせの前に分かってしまうのではないかと思うぐらいでした。しかし、それは杞憂でした。

 序盤は所詮、貴志さんの手のひらの上です。大抵の密室殺人ものでは、いくら探偵が「これは密室殺人だ」と言っても、抜け道をひとつ残らず潰すことはしませんよね。しかし、この作品ではしつこいぐらいにいろいろな抜け道が検証され、可能性が潰れていきます。

 この部分がすごく長いので、この作品の好き嫌いが別れるところかなと思いながら読んでいました。確かに、すべての抜け道が潰されたことが証明できたなら、密室の「密室性」とやらが強まるわけですが、ここまでしなくてもいいのかなって僕は思ってしまいました。ちょっと退屈さを感じてしまいます。

 ただ、後半では目線が切り替わるのです。これのお陰で飽きることなく読めました。この切り替わりでは、誰の目線に切り替わったのかが当初はわかりません。榎本の目線かなともとれる記述なのです。ミスリードさせる技術は上手いなぁと思いましたが、直接本編と関わることでもないので、これも必要があったかと言われると・・・。

 タイトルの「硝子のハンマー」に関連して、事件解決後に青砥と榎本が語る部分が好きです。

「若者というのは、いつの時代でも、どうしようもない矛盾の塊よ。社会を変革できるほど爆発的なエネルギーを持っているのに、ひどく傷つきやすくて、大人なら耐えられるくらいの、ちょっとたことで壊れてしまう。・・・まるでガラス細工の凶器みたいに。 」

(中略)

「そうかもしれません。しかし、問題は、ガラスのハンマーであっても、人は撲殺できることです 」

(中略)

「ガラス製のハンマーが、本当に危険な凶器になるのは、砕けてしまった後なんです 」

  硝子のハンマーというタイトル、絶妙だなぁと思いました。トリックのヒントになりそうなのですが、これがなかなか繋がらない。最後の最後、このやりとりで初めて「ガラスのハンマー」という単語が登場します。若者をガラス細工に例え、それが危険になるのは砕けてしまった後だという言葉。深いです。