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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【人生はリレーか?それとも】書評:ラッシュライフ/伊坂幸太郎

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

 

概要

 「オーデュボンの祈り」に次ぐ、伊坂幸太郎さんの2作目。5つの異なる視点から描かれる、いわゆる群像劇です。

おすすめポイント

 5つの物語は、微妙に重なり合いながら進んでいきます。一体どのようにつながっていくのか、気になってしまいます。また、序盤は少し抑えめながらも、個々の物語は非常に魅力的。ワクワクしながら読み進め、全体が見えた時はあっと驚かされます。

感想

人生はリレーか、重ねてみれば一緒か

 デビュー作の「オーデュボンの祈り」もすごく面白かったのですが、2作目のこちらも負けてはいませんでした。構成が工夫されているため、最初から最後まで伏線だらけ。矛盾を出さずに書くのは難しいだろうなぁと感心してしまいます。

 作品全体の構成を使ったトリックが、そのまま主題に繋がっていく。そこがすごいなぁと思うところです。つまり、誰かのほんのちょっとした行動が、他の誰かに影響を与え、そのまた次の人へと連鎖していく。「人生とはそういうものかもしれない」という問いかけを、物語全部を使って投げかけています。

『「昨日は私達が主役で、今日は私の妻が主役。その次は別の人間が主役。そんなふうに繋がっていけば面白いと思わないか。リレーのように続いていけばいいと思わないか?人生は一瞬だが、永遠に続く 」「人の1日なんてどれも似たり寄ったりだよ。俺たちの昨日も、おまえさんのカミさんの今日も、別の人間の明日だって、重ねて一度にみればどれも一緒に見えるさ 」』

 この会話は一見言葉遊びのように見えて、この物語の本質を表しているのではないかと考えました。実際は「リレー」のように続いているストーリーも、「重ねて一度」に見れば同時進行の単純なお話にしか見えないのかもしれない。果たして、僕達の生きる世界はどちらに近いのか。

 一見すると前者の考え方がポジティブに聞こえますが、そんなこともないのかなと。人生の主役はいつだって自分であって、他の人に移ることはない気がします。だからと言って、後者のように別の人間と重ねると一緒に見えてしまうような、面白味のない日々を過ごしたくもないです。なんとも難しい話です。

黒澤が好きです

 伊坂さんの作品に度々登場する泥棒の黒澤は、この作品が初登場だったのですね。どこか抽象的ながら、機知に富んだセリフはたまりません。

『その先を考えるんだ。あんただけじゃない。政治家だって、子供だって、みんな考えてはいないんだ。思いついて終わりだ。激昂して終わり、諦めて終わり、叫んで終わり、叱って終わり、お茶を濁して終わりだ。その次に考えなくてはいけないことを考えないんだ。テレビばっかり観ることに慣れて、思考停止だ。感じることはあっても考えない。』

 本当の「考える」とはどういうことか。なぜ黒澤はここまで語れるのか不思議です。

『佐々岡の妻は、おそらく佐々岡以上にタフであるはずだった。話を聞くだけで想像ができる。金や地位をおもんじる現実的な女は、人を信頼して裏切られる真面目な男よりは、よほどしっかりしているはずだ。地面の上に立っているかどうかも疑わしい男よりも、履いている靴がどこのブランドであるかを気にするOLのほうが、よほど頑丈だ。何も分かっていないのは佐々岡だ。』

 ブランドを気にする女性はただの派手好き、または見栄っ張りに見えるとの通念は黒澤に言わせれば間違いであるようです。「人は人を裏切ることがある。一方でブランド物が人を裏切ることはない。」こんな考え方もあるんだなぁと思いました。

 黒澤以外にも、この作品の登場人物は他の作品へいろいろと出演しているようです。まさに、伊坂さんの快進撃の始まりを告げる一冊です。