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【夢と現実のはざま】書評:ミッキーマウスの憂鬱/松岡圭祐

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

ミッキーマウスの憂鬱 (新潮文庫)

 

概要

 東京ディズニーランドにバイトとして雇われた主人公が巻き起こすドタバタ劇。ここまで書いていいのかとヒヤヒヤしますが、解説によるとフィクションが多いのだそうです。作者の松岡圭祐さんは万能鑑定士シリーズを書いている人で、こういうジャンルも得意なんだとか。

おすすめポイント

 展開はある意味テンプレ通り。主人公も好き嫌い別れるキャラなので合わない人は合わない作品でしょう。しかし、夢と現実の狭間で思い悩むスタッフたちから、なにか教訓めいたものを感じ取れるかもしれません。

感想

 念願が叶って入社したものの、突きつけられた現実に打ちのめされ、そこからハプニングを通してディズニーへの愛を再確認するというストーリー展開。先が読めていますし、特筆すべきものは見つけられません。

 ただ、「夢と魔法の王国のバックステージには現実が広がっている」という設定はなんだか逆説的で面白かったです。夢と現実のはざまにいるのは、来場者なのか、はたまた働いている方々なのか。

 どういう立場でディズニーランドに関わっていくのか。一般化すると、仕事への姿勢に、僕の興味は向かいました。単なるファンでいたいのなら、裏方の仕事などするべきではないと思うのです。それは、例えばゲーム会社など、他の職種でも起こり得るのではないでしょうか。

 このセリフでは「夢は夢のままの方がよかった」と言っている。

『クルーのあいだの対立。夢のディズニーキャラクターを演じる者たちの葛藤。そんなものが存在するなんて、できることなら知りたくなかった。夢は夢のまま、そのほうがどれだけよかったかわからない。ほんの一瞬、後藤のなかを後悔という二文字がかすめた。』

 できることなら知りたくなかった。仕事の良い面だけを、楽しい面だけを見て、こんな仕事がやりたいと思ったのでしょうかね。この主人公は楽観的でうらやましいです。きっとどんな仕事にもこういう一面はあるんじゃないのかなと思います。

 こちらの言葉の方が抽象的で哲学的でしょうか。

『こっち側。それはつまり、夢から醒めきった人間たちの集まる世界。夢は見るものではなく、与えるものだと割りきることのできた人々の集う裏舞台。』

 夢は見るものではなく与えるもの。そんなセリフが言えるのはディズニーのスタッフならではですよね。まぁしかし全然楽しそうじゃないセリフです。こんな言葉を吐いている社員も、結局は主人公のがんばりを見て感化されてしまいますが。お決まりのストーリーですね。

 ドタバタ劇を通して青臭い情熱を振りまき、主人公は多くのスタッフの心を揺り動かします。特にこのセリフはほんとに青臭いです。青臭い大賞です。ご堪能ください。

『僕たちはゲストの笑顔に接するのが好きです。そのためにこの仕事を選んだんです。ディズニーランドを支えるためなら、なんだってします。自分で正しいと思った道を進みます。スーツを着て本社棟におさまっておられるあなたたちは、僕たちをたんなる盤上の駒とでも見ているのかもしれない。でもここは、すべてが手作りなんです。ゲストの夢を守るために誰もが全力を尽くしているんです。たしかに規則を守ることは重要です。けれども、なによりも優先されるのはゲストのために働くことではないんですか。ディズニーランドを永遠に素晴らしい楽園として維持していくことではないんですか 。僕らが愛しているのは会社じゃない、ディズニーランドなんです。あなたたちの立場を守るために働いているわけじゃありません!』

 ディズニーをモチーフにしてなかったらドラマ化決定ですね。この名セリフ。作者は実は面白半分で書いていたんじゃないかって思えるぐらいわざとらしい感じです。ストーリーもすごくわかりやすいですし、もはや全部わざとなんでしょうかね。興味深いテーマではありましたが、どうしても斜に構えて読んでしまう作品でした。