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【心の傷にも包帯を】書評:包帯クラブ/天童荒太

包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)

包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)

 

概要

 心の傷にも包帯を巻かなきゃ。そんな思想で始まった高校生の仲間内のクラブのお話。くだらないことにも一生懸命な青春物語といった感じですが、心の傷は認めてあげることで初めて和らげることができるという視点はなかなか鋭いなと思いました。

おすすめポイント

 痛々しい話なのかなと思って読み始めましたが、まったくそんなことはありませんでした。つらい時に読むと元気が出ると思います。ありきたりですが、やっぱり友達っていいですね。

感想

 「悼む人」が良かったのでこちらも読んでみました。2つの作品はまったくテイストが異なっていて驚きでした。ストーリー展開もさることながら、文体からして違っていますね。

 主人公たちは、景色に包帯を巻きます。屋上の手すりだったり、木の幹だったり、いろんなところに。

『心の内の風景と、外の景色は、つながっている・・・そう直感的に思ったときと同じで、わたしは、包帯を巻いて心が軽くなるのは、傷が治ったわけじゃなく、<わたしは、ここで傷を受けたんだ>と自覚することができ、自分以外の人からも、<それは傷だよ>って認めてもらえたことで、ほっとするんじゃないかと思った。』

 包帯自体の効果というよりも、他人に傷を認めてもらえることってありがたいことなんだと。自分も傷として認識し、逃げずに向き合うことの助けになるから、きっと心の負担がが軽くなったと感じるのでしょうね。

 この包帯の効果は何度も表現を変えて語られています。大したことはできなくても、認めてあげること、私は知っているんだと伝えてあげること。こんなエピソードにも表れています。

『あの頃、急に成績が落ち、担任の先生からどうしたとたずねられた。わたしは迷ったあと、家でちょっとあって、と答えた。その瞬間先生は、わずかだけど、しまったという顔をした。それ以上質問してくることもなく、まあしっかりやれと、ほかの書類のほうへ目をそらした。何かしてほしかったわけじゃない。ただ知っておいてほしかっただけなのに。それなりの事情もあるんだと。もし、知ってくれているとしたら、わたしはどこかで救われたって・・・そういうことだったのに。』

 近くにいる人が、ただ事情を知っていてくれているだけで、心強く思えることってきっとありますよね。でも、己のすべてを他人に打ち明けることが難しいのもまた事実です。

『ここに包帯を巻いてもらうつもりはなかった。すべての傷に効くとは、いまはまだ思えない。いや、多少は効くかもしれないけど、ほかの子も、すべての傷を人に明かすわけじゃないと思う。それにはまた別の勇気が必要で、互いのあいだに別の信頼も要るように思えた。そして、確信はなかったけど、きっとそんな勇気や信頼は、自分ひとりで治した傷をいっぱい持ってなきゃだめなんじゃないかって気がした。 孤独のなかで、じっとかさぶたができるのを待った傷・・・その傷あとの多さが、これまでとは別の勇気、別の信頼を、だれかとのあいだに持てる可能性を、与えてくれるんじゃないかって・・・。』

 心の傷に向き合った経験の多さが、他人を信頼する勇気につながっていくと。なるほど。ストーリー自体はどちらかと言えば平坦なのですが、心の傷というものに真正面から光を当てた作品でした。「悼む人」は「死」に向き合った作品でしたし、天童さんはすごく誠実な作家なんだなぁと思いました。

 

こっちも名作です

ytera22book.hatenablog.com