ネットワーク的読書 理系大学院卒がおすすめの本を紹介します

本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【ピュアな不倫の恋】書評:僕の好きな人が、よく眠れますように/中村航

僕の好きな人が、よく眠れますように (角川文庫)

僕の好きな人が、よく眠れますように (角川文庫)

 

概要

 大学院生の主人公は北海道からきた研究員の”めぐ”に恋をしますが、彼女にはすでに夫がいます。許されざる関係に踏み込んでしまった二人の物語です。不倫の恋をピュアに描いた恋愛小説です。

おすすめポイント

 不倫の話ではあるのですが、ドロドロとした三角関係が描かれるわけではありません。ほんわかした雰囲気と、軽妙な言い回しがなんだか心地よい、不思議な物語です。

感想

 僕は不倫をしたことはありません。しようとも思いません。たぶん、主人公もそう考えていたのだと思います。でも、出会いは突然やってきてしまったのです。

『いいじゃないか、と思っていた。季節は春で、僕も彼女も酔っていて、僕らはまだ出会ったばかりだった。だからそんなふうに思えたんだと思う。 僕らは多分これからの一年を、永遠に近いほど長いものに感じていた。反面、いつかは終わる夏休みのように、気づいたら過ぎているものだと、ちゃんとわかっていた。』

 最初のうちは主人公も迷っています。そんなころ、バイトで木戸さんという謎に人物に出会います。彼は迷う主人公に対して、自論を展開します。

『数学の世界だったら、永遠に付き続ける線を簡単に定義できるだろうよ。宇宙の果てまで行っても、決して交わることのない二つの線は、それでも永遠に近付き続けるんだ。だけどよ、残念ながらそんなものは、この世にはねえ。』

 中途半端な状態は続かない。友達以上恋人未満の状態で、距離が縮まり続けることはないのですね。

『今、共にある二つの手を、僕は見つめる。夏に一メートルの距離まで近付いた僕らは、今、ゼロメートルまでその距離を縮めた。このあとまた離れるために。ただそれだけのためだけにー。』

 離れるとわかっていても、始まってしまった恋。悲しい状態ではありますが、あくまでもほんわかと話は進んでいきます。明確な答えを出せぬまま、二人はどんどん離れがたくなっていくのです。最後はどんな結末が待っているのだろうと期待して読み進めていました。

 しかし、中盤から終盤にかけて、ストーリー自体はぼんやり、もやーっと展開されて、最後は逃げるかのように終わってしまった印象でした。不倫の恋に正解がないのは当然でしょうが、せめて終わりまでは書いてほしかったなと思ってしまいました。もうちょっとはっきり描いてあげないと主人公がかわいそうです。

 『僕の好きな人が、よく眠れますように。いつの日も、これからどんなことがあっても、健やかに眠れますように。』

  じんわりと終わりを受け入れた主人公が思うセリフ。よく眠れることはいいことですね。うんうん。結局、主人公とめぐはどうやって別れるのでしょう。僕の予想では、特に奇跡は起こらず、静かに別れを受け入れるのではないかなと思いますが、いかんせんその辺は全く書く気がなかったようです。どうなるのでしょうね。

 木戸さんは好きです。いいキャラしてます。もっと木戸語録を聞きたかったです。

『この世には、マグレと気まぐれしかねえんだよ』 

 そうかもしれません。ゴロがいいですよね。

 

 

 この短篇集には「ハミングライフ」という中村さんの作品が収められていました。こちらもほんわかしたお話で、読んでいて楽しい物語でした。

オススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

更新情報はTwitterで。