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【真面目に銀行強盗?】書評:陽気なギャングが地球を回す/伊坂幸太郎

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

 

概要

 「オーデュボンの祈り」「ラッシュライフ」に続いて伊坂幸太郎さんが3作目に発表した作品です。ちょっとした特殊能力を持つ4人組は、周到に準備して銀行強盗を働いています。しかし思わぬところで失敗したことを発端に、厄介なことに巻き込まれていきます。

おすすめポイント

 どこかふざけているように見える主人公たちの会話と、序盤でぶち撒けたパズルのピースをクライマックスで全て拾っていくスタイル。まさに伊坂節です。ド派手なトリックがあるわけではないですが、ページをめくる手が止まらない作品でした。

感想

 文庫版には伊坂さんが書いたあとがきが載っています。

『寓話のように感じられるかもしれませんが、寓話は込められていない。そういうお話になりました』

 何か教訓めいたものを感じる作品ですが、特に寓話ではないらしいです。確かにストーリー全体で何かを訴えかけてくるタイプの作品ではないなと感じました。もちろん抜群に面白かったですが。

 その一方で、会話の端々には何かを暗示させるもの、何かを皮肉るものが見えたので、それをいくつか拾ってみることにします。例えばこの会話。

『「祥子さんと僕たちは明らかに考え方が違っていて、たぶん正しいのは祥子さんのほうだ。でもさ」 「でも?」 「正しいことが人をいつも幸せにするともかぎらない」』

 主人公たちが行う銀行強盗は正しいことではない。だけど、正しいことが人をいつも幸せにするわけではない。もうひとつ、銀行強盗をやめる気は無いのかと聞かれた時のメンバーの回答。

『成瀬さんはこう言ったんだ。『世の中には、犯罪らしい犯罪が必要なんだ』ってね(中略)世の中にはさ、失業者が必死に起こす強盗とか、大人を馬鹿にした若者たちが起こす殺人とか、そうでなければ国同士が攻撃したり報復したりとか、そんなのばっかりだから。だから、ひ弱な知識人がいい気になるんだって言ってた。』

 こちらも何か社会を批判するようなメッセージを感じますね。

 タイトルの「地球を回す」というフレーズが出てくるのはここです。

『「それでも地球は回る、というのと似ているね」久遠は言う。 「そうね。地球が回るように、この人も裏切る。写真があっても、都合の悪い写真をわたしたちが持っていようと、いざとなればこの人はわたしたちを裏切る」』

 しかしあんまり核心をついた場面ではないですね。この会話は関係ないのかも。

『「臆病は理屈じゃないから」雪子はしっかりとした声でそう言った。 説得力があった。臆病は人の単純な癖のようなものではなくて、もっと本質的なものかもしれない。危険を避けようとするのは動物なら当然のことで、それをちょっとやそっとの理屈で、ましてや怪しいカメラで撮影された写真だけで、抑えられるとは思えなかった。』

 「臆病は理屈じゃない」というセリフもなんだか印象に残りました。冷たく言い放った一言という感じですが、動物が危険を避けようとすることはごく自然だという混ぜ返しまた面白いです。

 基本的に主人公たちはふざけてじゃれあってるようにしか見えないのに、みんなまじめに銀行強盗に取り組んでいます。いろいろなところにギャップが用意されていて、そのギャップが何故か心地よい。そんな作品でした。

 

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