ネットワーク的読書 理系大学院生がおすすめの本を紹介します

本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【人の心も科学】書評:ガリレオの苦悩/東野圭吾

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

 

概要

 「探偵ガリレオ」「予知夢」「容疑者Xの献身」に続くガリレオシリーズ第4弾。5つの短編が収められています。ドラマでは柴咲コウさんが演じていた内海薫刑事が初登場します。

おすすめポイント

 第3弾の容疑者Xの献身が初の長編だったこともあってか、トリックよりもストーリーに重きを置いている印象を受けます。また、「探偵ガリレオ」「予知夢」のころよりも、ガリレオ先生の人間性にスポットが当たる記述が多くなり、人の心についての湯川自身のコメントも増えたなぁと思いました。ガリレオ先生の「苦悩」がかいま見えます。

感想

 内海刑事の登場により、シリーズに花が添えられました。彼女がどんな人間なのかが徐々に明らかになっていく様子は興味深かったです。

『何人かの刑事たちがベランダを頻繁に出入りしていた。薫は彼等の動きが一段落するまで待っていることにした。早く見たところで何か得をするわけではないと割り切っている。我先にと焦るところが男の子供っぽいところだ。』

 男ばかりの職場で、自分は他とは違うのだという意識を持っていそうですね。でも、女であることを言い訳に使う場面も。それを湯川はチクっと指摘します。

『相手の対応が期待通りにならないたびに、女だからなのかとぼやくようなら、今の仕事はさっさとやめたほうがいい』

 手厳しいですね。ガリレオのメインテーマである「科学」というものに関しても、湯川は内海を問いただします。

『じゃあ訊くが、きみは今までにどれだけ科学について勉強した?理科が苦手だといったが、それを克服する努力をしたことがあるのか?早々に投げ出して、科学から目をそむけてきたくちじゃないのか。それならそれでいい。一生、科学とは関わらないことだ。困った時だけ警察手帳を翳し、さあ謎を解けと科学者に命令するようなことはしないでもらいたい。』

 珍しく強い口調の湯川。科学に真摯に向き合っている彼だからこそ、科学を馬鹿にする人は許せないのでしょう。しかし内海は徐々に湯川の信頼を勝ち取っていきます。なぜなら、彼女は真面目で頑張り屋さんだからです。

『まずはやってみるーその姿勢が大事なんだ。理系の学生でも、頭の中で理屈をこね回すばかりで行動の伴わない連中が多い。そんな奴らはまず大成しない。どんなにわかりきったことでも、まずはやってみる。実際の現象からしか新発見は生まれない。僕は草薙から場所を訊いてここへやってきたけど、 もし君が実験をしていなければ、そのまま帰っていただろう。そうして、おそらく二度と協力する気にはなれなかっただろうね』

 1つ目の短編でこのやりとりがあるわけですが、湯川がすごく人間に興味を持っているなぁと感じました。今回はなんだか様子が違うな、と思ったのです。

 

落下る

 自殺に見せかけた殺人と思わせておいて、真相は自殺。空回りしてしまう内海刑事が健気です。今までの作品のような単純な謎解きではないなと感じました。

 

操縦る

 これは名作だなぁと思います。湯川の恩師の家で起きた放火殺人。たまたま居合わせた湯川は、真相に近づくにつれて浮かない顔になっていく。まさに「ガリレオの苦悩」です。人の心の裏の裏まで読んだ湯川の行動も含めてテレビドラマで結末を知っていたのですが、改めてジーンときました。このセリフがすごく印象的です。

『「君は変わったな。昔は科学にしか興味がなかったはずなのに、一体いつの間に、人の心がわかるようになった」 湯川は微笑した。 「人の心も科学です。とてつもなく奥深い」』

 草薙刑事に厄介な事件を持ち込まれる日々が続き、湯川にも変化が訪れているということでしょうか。ある種のターニングポイント的な事件だと思います。

 

密室る

 トリックはバリバリ科学的。ただ、この作品でも、湯川は友人に気遣いを見せます。こちらも「苦悩」というタイトルを連想させる短編でした。

 

指標す

 ダウジングが使える女の子がカギを握る物語。ヒントが少なすぎて驚いてしまいました。「科学vsオカルト」な感じは「予知夢」に収録してあった短編に似ています。

『「君はまだ科学というものがわかってないな」薫は、むっとした。「どうしてですか」「神秘的なものを否定するのが科学の目的じゃない。彼女は振り子によって、自分自身の心と対話している。迷いを振り切り、決断する手段として使っているにすぎない。』

 科学の目的は、神秘的なものを否定するのではない。なるほど。

 

攪乱す

 湯川に挑戦状が叩きつけられるスリリングな物語。科学を無差別殺人の道具に使う犯人に、湯川は怒ります。普段こんなに強い口調にならないので、迫力があります。

『今回の犯人のことを、僕は心の底から軽蔑している。どういうわけで僕に敵愾心を持っているのかは知らないが、罪もない人間を二人も殺し、それによる脅迫効果をゲームのように楽しんでいる犯人を、僕は絶対に許さない。何としてでも見つけだし、罪を償わせてみせる』

 トリックだけでなく、姿を見せない犯人の心までも、湯川は読み切ります。ここでも、他人の気持ちに思いを巡らせる湯川の姿を見ることができます。

 

 

ガリレオシリーズ1作目。

ガリレオシリーズ2作目。