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【家族という聖域】書評:夜行観覧車/湊かなえ

夜行観覧車 (双葉文庫)

夜行観覧車 (双葉文庫)

 

概要

 高級住宅街で起こった殺人事件を描く湊かなえさんの長編小説です。テレビドラマもヒットしました。

おすすめポイント

 湊かなえさんの描く「家族」、その中でも特に「母と子の関係」は他の作品同様毒々しくて、生々しくて、容赦がありません。代表作である『告白』に通ずるものがありますが、今回は最後に僅かな希望が見えます。

感想

 3組の家族の視点で描かれる物語です。殺人が起きた高橋家には3人の子どもがいます。そのお隣である遠藤家には娘が一人いる夫婦が住んでおり、向かいの小島家にはおばさんが一人で住んでいます。夫、妻、息子、娘、兄、弟、妹、姉。あなたはきっと誰かに自分を重ねあわせながら読むと思います。どこにでもいるような家族の物語だからです。

 あるときは一人の人物に共感できても、またあるときには理解不能になったりすることがあると思います。小説の登場人物とはいえ、彼らは別の家で生きている他人だからです。お隣さん同士であっても、他人の家族関係を真に理解することはできません。両親がエリートだからお金持ちだとか、息子さんは優秀でトップ進学校に通っているということぐらいは分かるでしょう。娘が癇癪持ちでしょっちゅうブチ切れているかもしれません。しかしその癇癪の原因は外からは知り得ませんし、大変そうだなと思っても、他人の分際で口を出すわけにはいきません。他人の家庭が何か問題を抱えていても、それに関わるのはご法度なのです。

よそさまの家庭のことなど、憶測で話してはいけない。だからみんな知らないふりをするし、そうしたからといって非難されることのない仕組みになっているのだ。

 外からは見えない家族という閉ざされた世界。殺人事件が起きた高橋家の子どもたちはこの危機にどうやって立ち向かうのか。僻みの対象だった高橋家で殺人事件が起きたことで、癇癪持ちの娘がいるギスギスの遠藤家はどのように変わるのか。昔から高級住宅街に住んでいるマダムはどういう反応を示すのか。三者三様の動きの中に、僕たちは「自分」を見ることになります。「ああ、これは自分だ」「自分もこんなふうに言ってしまうかもしれない」、と。

 僕の心に足跡を残していったのは遠藤家の夫です。癇癪持ちの娘と、見栄っ張りの妻と一緒に暮らしています。彼女たちはしょっちゅうバトルを繰り広げていますが、彼は我関せずを貫いています。いつか娘が大人になって、バトルがなくなってくれればいいと思っています。お隣で起きた殺人事件は、もしかしたらこの事態を打開するきっかけになってくれるんじゃないか。不幸のどん底にあるお隣よりはマシだろうと、気持ちを入れ替えてくれるのではないかと彼は期待をしています。

なんて、浅ましい考えなんだ。他人の不幸を見なければ実感できない幸せなど、本当の幸せだと言えるのだろうか。・・・いや、言える。そうなってほしかった。 

 しかし終盤、その考えは間違っているということに彼は気づくのです。自分は現実と向き合って、家族と向き合って生きていかねばならない。ようやくそのことに気づきます。僕も家庭のことはないがしろにしてしまいそうな気がしているのですが、それではいけない。無関心であるということは本当に最悪の状態なんだと思いました。それに気付けた遠藤家は、きっと喧嘩をしながらも一緒に暮らしていくことができるでしょう。

 遠藤家だけでなく、殺人事件が起こった高橋家も、なんとかやっていけそうだなという形で物語は締めくくられました。救いがあってよかったです。どこまで悪い状況に陥ったとしても、家族という縛りからは逃れられるものではありません。窮地に陥ってしまった場合でも、逃げずに向き合うしかないのですね。日ごろから窮地に陥らないようなほんのちょっとの努力を怠らないようにしたいと思いました。

 

  

 『流星ワゴン』のラストが思い出されました。あの物語でも、崩壊の危機に落ちった家族が、なんとか持ち直すお話でしたね。 

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

 

 

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