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【夢の墓標】書評:岳飛伝 十四 撃撞の章/北方謙三

岳飛伝 十四 撃撞の章

岳飛伝 十四 撃撞の章

 

概要

 水滸伝、楊令伝に続く北方謙三の北方水滸伝第3部。その14巻です。

感想

 今後の大きな流れが決定的になったのではないかと思います。南宋vs岳飛梁山泊vs金という枠組みで戦が始まっていくのではないでしょうか。秦容の位置が絶妙なので彼がどう動くかが楽しみです。

 大きな時代のうねりが描かれる一方で、ひっそりと人生に幕を下ろした人物がいます。長らく水軍を支えていた李俊がついに亡くなりました。海で溺れて潮に流されている少年を救ったあと、体力の限界が来たようです。前巻で韓世忠をぶった斬ったと思ったら、こんなに弱っていたのですね。驚きました。

人は生きて、そして哀しみばかりが多いのだ。どれほどの友を、失った。どれほどの、大事な人が、自分を残していなくなった。やっと来たのか。そんな気がした。 こいつはいつも、笑いながら近づいてきて、それでもぶつかることはなかった。気づくと、消えてしまっていたのだ。 長かった。実に、長かった。面白かったではないか。この上なく、面白かった。哀しみさえも、面白かった。 

 これで本当に史進だけが残されてしまいました。残っている梁山泊の面々の個性が薄くなってしまっている印象を受けます。主役を張れる華々しい活躍ができる男があと何人残っているでしょうか。もちろん地味な仕事をしている人間にもスポットを当てるのがこのシリーズのいいところではありますが、やっぱり派手なシーンもみたいです。昔は強烈な個性を持った男がたくさん梁山泊軍にいたような気がするんですが、気のせいですかね。

 秦容と岳飛が、興味深い話をしています。

「夢に、人の生が届くということは、ないのでしょうか、秦容将軍?」 「ないぞ、范寛。男はみんな、見果てぬ夢を抱いて死ぬ」 「そうなのでしょうか」 「届いたと思ったら、それは夢ではない。夢にどうやってむかって行ったかが、男の人生さ。ただ、夢は受け継がれる。振り返ると、 夢という墓標が、延々と続いている。その先端に立って、俺たちはいまいるのさ」 「そんなことは、自分で考えろ、范寛。秦容も俺も、夢を愉しみ、同時に夢に翻弄されてきた。そして、立っているのさ。」 

 振り返るとただ夢という墓標が立ち並んでいる。それはまさに水滸伝から続いてきた梁山泊の戦いの歴史です。現代に生きる僕達も、見果てぬ夢を抱いたまま死ぬのでしょうか。秦容も岳飛も、それがまったく当たり前のことのように話しています。「夢にどうやってむかって行ったかが、男の人生」。ああ。こういうセリフを吐いても違和感がないところが滅茶苦茶かっこいいんですよね、このシリーズの登場人物たちは。

 胡土児がついに楊令の息子だと判明し、梁山泊側もそれを知ることになります。一大ニュースのはずなのですが、意外と静かに受け入れられていますね。吹毛剣を受け取った彼は最近ではまれに見る濃いキャラをしているのに、北へと追いやられてしまいました。3年戻ってくるなと言われましたが、それを守っていたら岳飛伝が終わってしまいそうですね。兀朮とのやりとりは熱いものがありましたが、とりあえずしばらくは退場なのかな?

「ならぬ。吹毛剣で、梁山泊の人間を斬ってはならぬのだ。それをやれば、おまえは人でさえなくなる」 「望むところです」 「俺は俺の息子に、人でいて欲しいな」 

 岳飛がようやく中華の地に戻ってきました。南宋で暴れていますが、まだまだ点を抑えている程度。これからどのように巻き返していくか楽しみです。一方で梁山泊本隊の戦も久々に見られそうですね。

 

 

その他、話を覚えておくためのメモ。

  • 王清は今まで滞在していた村を離れ、十三湊へ。昆布の差配を引き継ぐ。
  • 小梁山で働いていた俘虜は、国境の南宋軍と戦えば戸籍を得られることになる。
  • 韓成の息子韓順と、蕭炫材の息子蕭周材が一緒に旅をしている。韓成に出会ったり、梁山泊の本寨を訪れたりする。
  • 張朔が日本の東を回る航路を開拓。その途中でヘイセイセイと出会い、南の酒の取引を約束する。

 

岳飛伝シリーズ。