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【四方八方激闘の予感】書評:岳飛伝 十五 照影の章/北方謙三

岳飛伝 十五 照影の章

岳飛伝 十五 照影の章

 

概要

 水滸伝、楊令伝に続く北方謙三の北方水滸伝第3部。その15巻です。

感想

 戦況が激しく動き出しました。中華を揺るがす出来事が各地で発生し、それらが絡みあって今後の展開が読みにくく、非常に面白くなってきました。北から見ていくと、燕京を睨む形で梁山泊が奪った雄州、兀朮と呼延凌が睨み合う中原、秦容と岳飛と程雲が三すくみの南宋南宋水軍の影が見え隠れする小梁山。日本でも張朔率いる水軍の戦いが発生。そして史実を念頭に置くと注目すべきは蒙古でしょうか。この盛りだくさんな展開を見ると、最近岳飛伝に感じていた物足りなさがウソのようです。

殺しても死なない岳飛

 程雲が岳飛を討とうとして組んだ作戦は本当にお見事でした。「ここ」という一点に賭け、耐え忍んで待っていたところに、まんまと獲物がやってきました。そこまでは完璧でした。ですが、岳飛が死ぬわけないんですよねぇ。程雲は相手が悪かったです。

しかし、自分の敗戦がどれほど大きなものだったのか、とやはり岳飛は考える。軍に戻り、張憲や孟遷を相手に、それは口にできないことだった。負けは、ひとりで嚙みしめる。これまでに、どれほどの負けを噛みしめてきたのか、と岳飛は思った。 

 何度も何度も負けるということが、他の武将にはない岳飛アイデンティティな気がします。こんなに負けている男って他にいましたっけ。打ちのめされてもそこから立ち上がる芯の強さが、岳飛の武器なのだと思います。一方で今回は岳飛の弱さも明らかになりました。

虫のいいやつだな。結局は、崔如殿には捨てられたくないし、チンヨウとも続けたい、と言っているのだろう。しかしなあ、岳飛。それが男だよ。おろおろしているおとまえを見ると、からかう気もなくなった。図太くなれよ。程雲など、おまえは殺してもしなないやつだ、と思っているだろう。それぐらい、図太くなるんだよ。女とは、時には戦になる。勝ったり負けたりさ。それでも殺されても死ななければいい。  

 不倫がバレてオロオロする岳飛。こんなシーン珍しいですね。そもそも不倫というものが北方水滸伝において珍しい気がします。それを主人公にやらせてしまうのだから、北方さんは面白いことを考えます。岳飛の素朴なキャラがよく発揮されています。

 岳飛の奥さんである崔如はずっと南方にいるわけですから、よっぽどのことがない限り不倫がバレることはないのだとは思います。でも、不倫がバレた時の二人の反応が見てみたい。もしくは、岳飛はバレていないと思っていても崔如には何もかもお見通しだったりするのかも。楽しみなことが増えました。

金の命運を握るのは

 金国の命運を握るのは兀朮と海陵王の関係性でしょうか。この関係性もなかなか面白いなと思って注目しています。

生きているから、こわいのだ。死ねばいい。こわいのは死ぬと思うからで、死んでいれば死ぬと思わん。最初の一撃だ。それでおまえは、いろいろなものを脱ぎ捨てられる。 

 なんだかブラック企業の創業者みたいな発言ですが、海陵王が一端の男になるかどうかは、今後の展開を左右しそうです。肝心なところで彼が腰砕けであれば、兀朮の苦労は倍増ですからね。

「手が届いても、頭をぽかりとやるぐらいで」「あの海陵王とかいうやつが逃げる時、いつでも首を奪れる隙があるのですよ。なりふり構わず、逃げるからですかね。俺も、兜を飛ばすぐらいにしておきます」 

 梁山泊遊撃隊の面々は海陵王を舐めきっています。「頭をぽかりとやるぐらいで」なんてかわいいセリフを聞けるとはちょっと驚きました。さて、海陵王は男を見せることはできるでしょうか。

 個人的に一番気になるのは秦容の動きです。今は南宋領内で臨安府を睨む位置にいますが、そこは南下してくる金軍にも対応できる場所でもあります。岳飛南宋と秦容の三者が絡み合う状態から、さらに金まで巻き込むとなるともう混戦です。いったい彼はどういう作戦をとるでしょうか。楽しみですその他、話を覚えておくためのメモ。

  • 韓順とショウシュウザイの旅が終わる。不意に現れたショウケンザイに、約束の時を守るように言われ、死ぬ気で走る。そして、韓順ついたとたん、顧大嫂が亡くなる 。
  • 南宋軍のライキョウ、コウレイが指揮する大群を秦容が撃破。二人は南宋軍から退役することになる。
  • 韓成が西遼の丞相になる。韓順は北の部族のところへ行き、飛脚網を広げる仕事をする。
  • ヘイセイセイの協力もあり、張朔は南宋水軍40艘を壊滅させる。陸に上がったときにリュウコウギョクが梁山泊水軍の将校を切り倒し、張朔を怒らせる。 
  • 胡土児に何度も命を救われた少年は徒空と命名される 。
  • 軍のこまごまとしたことを取り仕切っていたサイランを、岳飛は将校にしてショウキの下に入れる。息子だからといって、特別扱いはやめる。 

 

岳飛伝シリーズ。