【ジェネレーションギャップミステリ】書評:アルキメデスは手を汚さない/小峰元
概要
1973年に発売され、江戸川乱歩賞を受賞した作品です。複数の高校生を主役にしたミステリーです。少し古い作品ですが、東野圭吾さんが推理小説を書くきっかけとなった本として有名です。
おすすめポイント
簡単には真相を見破ることのできない重厚な作品です。二転三転する推理の果てに、明かされる結論とはいかに。そして、若者と大人のジェネレーションギャップに関する記述が多いのも面白いです。
感想
ネタバレするので読んでいない方はお気をつけください。
かなり古い作品ですが、東野さんが有名になったこともあって、今も書店に並んでいる作品です。個人的にミステリとしてそこまで完成度の高い作品ではないと思います。あっと驚くトリックが仕掛けられているわけではなく、偶然や勘違いから生まれた謎が読者を惑わせます。
個人的に面白いなとおもったのは、高校生たちと大人の間の価値観の違いにスポットが当てられた記述が多い点です。
いまの少年たちは、俺たちの若いころよりも、啄木よりも、はるかにフランクだってことさ。啄木のように、"花など買いて"と上品ぶったり"妻としたしむ"などと持って回った表現はしない。あけっぴろげに自分の気持をぶちまけるね。飾ったり照れ隠しをしたりしないってことだよ。だから尋問するときも、先入観を持たずに、素直に彼らの言葉を聞かなくちゃ捜査を誤るかも知れない。
こんな感じで「俺たちの若いころ」と今の高校生を比較する表現がたくさん出てきます。しかしこの作品自体が古くなってしまっているので、石川啄木がどうのこうのと説明しても全然ピンとこないというところが玉にキズです。
逆に、昔から大人たちはジェネレーションギャップに苦しんできたのだと言うことができるでしょう。デジタル化が進んだ現代ならではの問題ではないということです。僕がおっさんになったときは、たぶん下の世代の考えていることがわからないとぼやくことになるのでしょう。それはもう、諦めるしかないのだなと思いました。
タイトルに仕掛けられた裏の意味には非常にしびれました。物語の真相を言い当てていると同時に、高校生たちがしでかしてしまったことへの哲学的な考察を含んでいます。
いいかい、アルキメデスが発明した殺人機械は、大勢のローマ兵を殺した。彼は殺人機械を発明しただけで、実際に操作したのはシラクサの兵士たちだ。だからアルキメデスの手は汚れていないと言えるだろうか。彼が名利を超越した学者だという伝説を、僕は信じないね。君の言うように、"美と高貴の具わっている事柄にのみ自分の抱負を置く"人だったら、いくらヒエロン王に命じられたって殺人機械の設計はしなかっただろうからね。
大勢の敵兵を殺すことを分かっていながら、殺人兵器を作ることは罪に当たるかどうか。アルキメデスの時代から原子爆弾投下までを貫く永遠の難問が、高校生の前にも立ち現れるわけです。
お互いに、もうお伽噺の年齢は過ぎたんだぜ。汚れた世間には、手を汚して立ち向かおうじゃないか。
この締めもなかなか素敵。子供から大人へと目まぐるしく成長していくこの時期ならではの青臭い言葉です。高校生ひとりひとりの個性の書き分けがイマイチだったのが残念。もっともっとキャラが立っているとより面白かったのになと思いました。
東野圭吾さんのミステリー小説の中で面白かったもの。
ガリレオシリーズ第2段。オカルトのような事件を科学的に解決するガリレオ先生の活躍を描きます。
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どっちを選んでも地獄。究極の選択を迫られる夫婦の物語。
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