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【新興国で勝てる決定力】サムスンの決定はなぜ世界一速いのか/吉川良三

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか (角川oneテーマ21)

サムスンの決定はなぜ世界一速いのか (角川oneテーマ21)

 

概要

 著者の吉川さんはサムスンに10年に渡って勤め、再生に貢献した人物です。サムスンの躍進の秘密に迫る一冊です。

おすすめポイント

 グローバルな市場で何が起きているかがわかりやすく書かれており、国内とは違った環境下で勝つためには何が必要かということについてヒントを得られる内容です。お説教のような部分もありますが、参考になることもあると思います。

感想

グローバル化と判断速度

 グローバル化が進んでいることはすべてのビジネスパーソンが念頭に置いているでしょう。しかし吉川さんは、グローバル化が進むとはどういうことなのかを真に理解している人が少ないと主張します。

これまで日本の企業は、国内の企業同士で、前回は勝ったけれども今回は負けた、という感覚のリーグ戦を続けてきたともいえますが、現在は、世界中の企業を相手にした「トーナメント戦」に舞台が移っています。 

 吉川さんは、リーグ戦とトーナメント線になぞらえてグローバル市場の戦いを説明します。今まで新興国は人件費の安い「工場」として捉えられる立場にありました。しかし工場ではなく「市場」としての存在意義がどんどん大きくなってきているそうです。そんな中で重要なのが、経済の発展が進む購買意欲旺盛な新興国の人たちに、いかにして自社のブランドを認知してもらうかということです。

こうした状況にあるからこそ、従来以上に「判断速度」が問われるようになりました。新興国でヒットする製品を世界中のどの企業よりも早く提示できるかどうかが重大な鍵を握るようになったためです。他のメーカーに先駆けてヒット商品を世に送り出すことができれば、その製品をつくったメーカーとして、"その国のブランド"になることもできます。サムスンはまさにそれに成功しました。 

 つまり、「家電と言ったらサムスン」という認識を広めることこそが大きなシェア獲得につながります。大多数の人が家電ブランドとして認識してくれた結果、たくさんの人がサムスンの家電を買います。新興国には他のブランドがまだあまり輸入されていないので、勝者がすべてを持ち去ることも不可能ではありません。リーグ戦ではなく、トーナメント戦だとした理由はこの辺にあります。

 新興国の市場で勝つためには判断速度を上げることが重要だと吉川さんは書いています。おちおちしていると他のメーカーが乗り込んでくるからです。タイトルもサムスンの決定が非常に早いという趣旨にしてあります。

 しかし最重要であるはずの判断速度に関する情報は個人的にちょっと物足りなかったかなと思いました。一応、社内システムを一から作り直し、ITによって「見える化」を進めたことが成果につながったと書かれています。じゃあ、サムスンの強さはそのシステムだけってこと?という感じで少しインパクトが弱かったです。企業秘密にしたい部分もあるのでしょうかね。

ニーズへの対応

 新興国の市場を調査するために、その国に溶け込み、その国の人たちの隠れたニーズを掘り起こす専門の人材を育てているという解説もありました。これは非常に面白い取り組みだなと思いました。まるでスパイです。日本にいる僕らがアフリカの人たちが欲している商品なんてわかるわけありません。その国に住んでいるからこそ分かることがたくさんあるのでしょう。これは素晴らしい戦略だなと思いました。いくら技術力が優れていても、その国で不必要な機能ならば無用の長物です。グローバル化にうまく対応しているなと感心しました。

 もうひとつ、日本製品(主に電化製品)は不要な機能がごちゃごちゃとたくさんくっついているというのはいつも批判の対象になります。吉川さんもそれをかなり強い口調で批判されていました。その弊害は、商品を企画するときのコスト計算に現れてくるそうです。

日本の製品であれば通常、製品の価格は、それをつくるために必要となったコストを計算し、製造原価や確保したい利益分を加算して決められます。いわば「足し算方式」ですが、サムスンはまったく逆です。サムスンでは、市場ごとに消費者の経済力などを調査していき、売れるために適当と考えられる価格をはじめに設定します。そして、その価格にするために削減を許されるコストを算出して製品開発を進めていく「引き算方式」になっています。 

 これは目から鱗でした。僕もこの引用文中の「日本の製品」のコストの決め方が普通だと思っていたのですが、それじゃあ競争力は得られないわけです。商品が売られている場所をまったくイメージできていないですものね。

 日本人と韓国人の性格の違いなども書かれていましたが、僕らは僕らが生まれ持った長所を活かしていくしかないですからね。その辺はあまり参考にはならないかなと思いました。サムスンのやり方を知ると、日本の電機メーカーが不振なのもうなずけますね。こんなにやり方が違っていて、しかもサムスンの方がグローバル市場に対応できているわけですから。学ぶべきところは真摯に学ばなければならないなと思います。

 

 

 

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