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【首切り請負人】書評:君たちに明日はない/垣根涼介

君たちに明日はない (新潮文庫)

君たちに明日はない (新潮文庫)

 

概要

 人員削減を請け負うリストラ専門の会社に勤める主人公の村上が活躍するビジネス小説です。第18回山本周五郎賞を受賞しました。 シリーズ化されていて、5巻まで出ています。

おすすめポイント

 村上はリストラ候補にリストアップされた社員を自己都合退職へと誘導する業務をこなしています。えげつない仕事に携わる一方で、彼自身も葛藤を抱える普通のサラリーマンです。首を切る側と着られる側が織りなす人間ドラマはとても斬新で、しかも面白いです。

感想

 そもそも、リストラを依頼されてお金を稼ぐ形態の会社は実在しません。でも、もし仮にそんな会社があればどういうドラマが繰り広げられるかということを突き詰めた、ある意味実験的な小説です。

 普通のサラリーマンをやっていると、生きるか死ぬかのスリリングな状況に追い込まれることなど滅多にありません。数少ない瀬戸際の状況の1つが、リストラ候補にピックアップされ、退職を迫られているときなのではないか。そう考えて書かれたのが本作品です。

 日本では雇用主が一方的に首を切るのが難しいと言われています。だから村上の仕事は、リストラ候補者を説得して自主退職に誘導することです。そんな仕事を生業にしている村上は、血も涙もない冷徹な人間なのかというと、そうではありません。そこがこの小説の面白いところです。

分かっている。あんな下衆野郎など、クビになって当然だ。だが、それを今まで見て見ぬふりをしてきたこの建材メーカーと、その意向に沿ってもっともらしい理由を見つけ、辞職勧告を促す自分ーちくしょう。いったいおれは何様だ?ウンザリだ。何度か辞めようと思ったこともある。この仕事を、だ。だが、それでもこの仕事内容のどこかに、心惹かれている自分がいる。辞めきれずにいる。自分でもたまに考える。こんな仕事の、いったいどこがいいのかー。分からない。   

 本人はこの仕事に惹かれていることを自覚しています。ですが、なぜこの仕事が面白いのかイマイチ理解していません。そんな葛藤の中で、他人の人生を狂わせる決断を迫る毎日を送っています。

 とある候補者と面接したときのエピソードが心に残りました。大好きなオモチャ開発の仕事を続けられるなら、どんなに減給されてもこの職場に残りたいと訴えてきた緒方という男性と村上が面談します。

好きな仕事をつづけるために、なりふり構わなかった緒方。オモチャの男。今の自分にないものを、あの男は持ちつづけようとしている。うらやましいと思ったわけではない。ただ、あんな冴えないトッチャン坊やでもどこかで救ってあげれればと、無意識に願っていた。だから社長にこの件を詰められたとき、妙に苛立った。 

 ここで、村上は自分の過去を思い出さざるをえません。彼はロードバイクのプロを目指していた時期がありましたが、夢を諦めてサラリーマンをしています。

もう、夢中になれるものは無くしてしまった。だが、それがなんだって言うんだ。いろんなことを考えさせてくれるこの仕事があって、マジで好きになりかけている女がいて、こうして場を和ませてくれるーちょっと薄ぼんやりしているがー美人のアシスタントもいる。確かに今でも、揺れ動くものはある。でも、この世界も悪くはない。

 最終的に、村上の権限の及ばないレベルでの決定により、緒方は首を切られずに済みます。村上は緒方との出会いによって自分の仕事を見つめ直すことになります。というより、自分の人生と折り合いをつけるのです。やりたいことがやれなくても、そうやって自分の生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれた出来事。それは、この仕事をしているからこそ出会えたものだったのでしょう。

 そのほか、数人のリストラ候補者とのあれこれが連作短編風にまとまっています。特別な立場の人間というよりも、どこにでもいそうな人間が、リストラの危機にさらされています。僕は自分の選んだ職業が緒方と重なるところがあったので緒方の話を紹介しましたが、他のエピソードが刺さる方もきっといると思います。

 登場人物が魅力的なので単なるエンターテイメントとしてもなかなか面白いですが、サラリーマンをやっているといろいろなところがチクチク刺激される作品なのではないかと思いました。

 

 垣根涼介さんの作品の中ではこちらの作品もすごく面白かったです。失敗したブラジルの移民政策の復讐に燃える男たちの戦いを描いた物語です。

ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)

ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

 

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A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

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