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【乱世を生きた海賊たち】書評:村上海賊の娘/和田竜

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

村上海賊の娘(一) (新潮文庫)

 

概要

 1570年、織田信長が大阪本願寺に籠った一向宗の信徒と対峙した「石山合戦」が舞台です。本願寺攻略のために、大阪湾で起こった海賊たちの戦いを描いた小説です。

おすすめポイント

 主人公は当時最強を誇った海賊、村上海賊の当主の娘。名前は「景」。男勝りの腕っぷしを持ち、不細工だったため嫁の貰い手がありません。景のキャラクターが素敵で、さらに彼女を取り巻く戦国の武将たちも個性豊か。それでいて戦いのシーンはしっかりと大迫力に描かれる、お腹いっぱい大満足の読書体験でした。

感想

 この物語は、一見すると景の痛快な活躍が描かれる軍記ものの小説なのですが、裏テーマのようなものが設定されていて、それが作品に奥行きを与えているのではないかと僕は思いました。

 戦国時代という乱世において、武将たちが最も重視したことは何でしょうか。領地を広げること、戦いで手柄を挙げること、天下を統一すること等、いろいろ考えられると思うのですが、一番は「自家が存続すること」だとこの作中では何度も語られます。

 確かに、領地を広げるのも戦いを続けるのも、自分の家が自分の代で潰えてしまっては何の意味もありません。少し保守的ではありますが、現状が維持されることが大事なのです。

 この物語では、織田信長と大阪本願寺の間に挟まれたいくつかの戦国大名にスポットが当たります。信長は第六天魔王などと呼ばれるほどの異端の存在、対する大阪本願寺戦国大名ですらありません。戦国時代における理から外れた存在としての両者に挟まれてしまった武将たちが、自家の存続の道を模索する物語であると言えます。

残るのは、からっぽの容れ物

 個人的に、この小説で一番痺れたのは3巻の終盤でした。

 大阪本願寺に兵糧を届けるため淡路島に集まった村上海賊。彼らは大阪湾に布陣する織田方の真鍋家を打ち破らないと兵糧を届けることができません。兵糧を積んだ船がたくさんあるため、単純な船の数では村上家が圧倒していますが、 実際の兵力は五分。そこで景は、真鍋家にも村上家の船の数だけは見えていることを利用して、和議を申し込みにいきます。

 ここで、真鍋家の当主である七五三兵衛からしてみれば、和議を受け入れて織田家を裏切るのが自家の存続に繋がります。村上家と真正面から戦って、負けてしまえばおしまいなのですから。

 しかし七五三兵衛は村上家と戦うことを選びます。その理由がなんとも深くて熱い。ポイントは、和議の交渉に七五三兵衛の9歳の息子が同席していたことです。和議を受け入れれば確かに自家の存続は果たせます。しかし、それで真鍋家が受け継いできた侍としての誇りはどうなるのかと。

大なるものに靡き続ければ、確かに家は残るだろう。だが、それで家を保ったといえるのか。残るのは、からっぽの容れ物だけではないのか。

 この心意気をもって、七五三兵衛は和議を拒否します。ここに至るまで、戦国大名が何より重視するのは自家の存続だとことあるごとに書かれていたのに、ここ一番でそれを裏切った七五三兵衛。作者が仕込んだ伏線であると同時に、この物語のもう一人の主人公は七五三兵衛だったことを気づかされました。

受け継がれた心意気

 さて、和議が拒否された結果、村上家と真鍋家は大阪湾で死闘を繰り広げることになります。戦国時代の戦いを描いた小説はいくつか読んだことがありますが、海戦を描いたものは読んだことがなかったので新鮮で面白かったです。馬と船では戦い方が全然違いますね。

 七五三兵衛は豪傑です。当時最強と言われた村上海賊に真っ向から立ち向かい、奮戦します。しかしこの物語の主人公は景ですから、最終的には討ち取られることとなります。主人公側の勝利でハッピーエンド。めでたしめでたしなわけです。

 しかし、作者が仕込んでくれたもうひとつの仕掛けが、七五三兵衛の無念を引き取ってくれている気がします。この戦いのあと、それぞれの登場人物がどのような生き方をしたのかを、史料をもとに書いてくれているのです。

 それによると、七五三兵衛の息子である次郎は、11歳で真鍋家の当主になったあと、父親と同様の剛勇さと無鉄砲を受け継ぎ、次々と武功を挙げ、秀吉や家康に重宝されたとあります。

 景が申し込んできた和議を七五三兵衛が拒否した結果、七五三兵衛は戦いで命を落とすことにはなったのですが、次代へと心意気が受け継がれ、立派に自家の存続が果たされたというわけです。いやあ、ニクイ仕掛けですね。

 あまり触れませんでしたが、ひとりひとりのキャラクターがしっかり立っていて、最初から最後まで楽しく読める作品です。Bランクに入れます。

 

 

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