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【母胎に仕掛けられた謎】書評:ジーン・ワルツ/海堂尊

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

 

概要

 海堂尊さんのチームバチスタの栄光シリーズの派生作品です。起承転結は本作の中で完結しているので、シリーズを読んでいなくても楽しめます。大学病院に勤める産婦人科医のお話です。

おすすめポイント

 現実の医療問題に対する鋭い問題提起はこのシリーズに一貫して見られる特徴ですが、本作では産婦人科の抱える問題と、代理母出産の可否にスポットが当てられます。また、良く練られたミステリー要素があるのも面白いポイント。クール・ウィッチこと曾根崎の仕掛ける罠を見破ることができるでしょうか。

感想

 今作で一番印象に残っているのは、主人公でありながら後ろ暗い謎を秘めた曾根崎理恵と、彼女の上司の清川の関係性です。名前をつけることの難しい二人の関係性は、愛情、信頼、疑心の間で揺れ動きます。浮気者の色男で通っている清川。主導権を握っているのは一見すると清川のようで、実は完全に立場が逆転しているというのが面白いところ。

 また、海堂さんの作品の中で僕が好きなのは、ロジックバトル。チームバチスタシリーズ本編では白鳥がロジカルモンスターなどというあだ名がついていますが、そのほかの登場人物もロジックで相手をやりこめるのがみんなお好きなので、派生作品でもバトルをよく見かけます。今作のクール・ウィッチは強かった。作中に敵らしい敵が出てこないので無双状態でしたね。

 最後に明かされる、クール・ウィッチが清川に対して仕掛けた罠。生殖医療というなかなか触れづらい領域で、大胆なミステリーを展開できるのは海堂さんならではだなと思いました。頭では理解できても、感情的になかなか処理しにくいなあと思いました。 

 チームバチスタシリーズでは霞が関の官僚批判がよく見られますが、今作はかなり際立っていましたね。どこまでが現実なのかちょっと混乱します。産婦人科は大丈夫なのか、いざ自分の周りの人が診療に行くという場面になったときに、心配になってしまいますね。 

 

オススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

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