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【ちゃんとした大人なんて】書評:漁港の肉子ちゃん/西加奈子

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)

漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)

 

概要

 タイトルの通り、漁港に住んでいる「肉子ちゃん」と呼ばれるパワフルな女性と、その子供であるキクの暮らしを描いた物語です。

おすすめポイント

 肉子ちゃんの底抜けに明るいキャラクターは読んでいて自然と元気をもらえます。後半は泣けます。 

感想

 前半と後半のギアチェンジが印象的な一冊でした。肉子ちゃんが抱えている秘密が明らかにされると思いきや、語られるべき過去を持っていたのは実はキクの方、というか両方。前半部分で描かれいてるように肉子ちゃんとキクが平和に暮らしていること自体が、実はとても尊いことなのだという事実がわかります。涙が出てきました。

 キクの胸に響くサッサンさんの説教。

 「おめは、いっつもそうらろ、キク。いっつも、何かに遠慮してんらねか。俺にだけじゃねて、大人にも、子供にも、んーなに遠慮してんだいね。」

 他人に一切の遠慮をしない肉子ちゃんの陰に隠れて、実はキクは遠慮をしすぎている子供だったという構図が、この説教によって際立たされます。

 それに対して、キクは生真面目に反省をしてしまう。そこがキクの可愛いところであり、可哀想なところでもあります。

私は、いつもそうだった。自分が楽になる方ばかりを選んだ。攻撃するより、攻撃されることを選んだ。でも、それを叶えるために、自分から先に攻撃することは、決してなかった。先回りして、予防線を張って、何も起こらないように、逃げた。

 キクは何も悪くないのに、境遇が彼女をこのような考え方に至らせてしまっている。そしてサッサンはそれすらも見抜いているように、キクに説教を続けます。

「生きてる限り、恥かくんら、怖がっちゃなんねえ。子供らしくせぇ、とは言わね。子供らしさなんて、大人がこしらえた幻想らすけな。みんな、それぞれでいればいいんらて。ただな、それと同じように、ちゃんとした大人なんてものも、いねんら。だすけ、おめさんが、いっくら頑張って大人になろうとしても、辛え思いや恥しい思いは、絶対に、絶対に、することになる。それは避けらんねぇて。だすけの。そのときのために、備えておくんだ。子供のうちに、いーっぺ恥かいて、迷惑かけて、怒られたり、いちいち傷ついたりして、そんでまた、生きてくんらて。」

 このキクへのメッセージは、どうしても肉子ちゃんを彷彿とさせる言葉になっているのが面白いですよね。ちゃんとした大人なんてものもいない。恥をかいてもよい。

 ちょっと消化不良のまま終わってしまったこともいくつか。二宮のことをもう少し書いてほしかったですし、キクの独り言の正体は何だったのでしょうか。港に3人並んでいる爺さんたちは何者だったのかも気になったまま終わってしまいました。

 

 

 

 

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