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【死神の目線で】書評:死神の精度/伊坂幸太郎

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 

概要

 主人公は千葉と呼ばれている死神です。彼ら死神の仕事は、死の対象となる人物を八日間追跡調査し、「可」か「見送り」かを判定すること。6つの短編が収められていて、千葉が担当した6人の対象者と、千葉の関わりを描いた作品です。

おすすめポイント

 突拍子もない設定ながらあくまで現実的に、千葉が死神としての職務を果たしていく様子を、ユーモアを交えて描きます。死が目前に迫った人と、その可否を決める千葉の交流は、他に類を見ない奇妙な交わり。まさに伊坂幸太郎ワールドといった感じです。

感想

 1つめの短編で、千葉は調査対象である藤木一恵を「見送り」にします。人情味あふれる判断で、全6編がこのようなハートフルな展開で進むのかなと思いました。

 しかし、以後の短編で千葉は「見送り」を1つも出しません。(はっきり書かれていないだけで、もしかしたら見送りにしたものはあるかもしれませんが。)それどころか、恋人ができたばかりで幸せの絶頂にあるような男を躊躇なく「可」にするなど、基本的に彼は人間の営みに深い理解は示しません。

 千葉は人間ではないので、人間が大事に想うこと、逆に悲しむことなどへの共感は持ちません。何を考えているかよくわからないので、物語にはある種の緊張感があります。予定調和なんて1つもなくて、物語の結末がどうなるのか全くわかりません。先が気になってしまうスパイスになっています。

 登場する人間の行動原理は理解しやすいものが多いですが、千葉というフィルターを通してみてみると、確かによくわからないと思ってしまうものが現れます。「人間は不思議だ」という趣旨のセリフを千葉は繰り返し言います。確かに、僕らは当たり前だと思っていたことも、死神からみると変に見えるのかもしれない。登場人物の目前に、死が迫っていると読者は知っています。そんなとき、人の行動が少し変わって見えてくるのです。普通の視点とは違う、死神の目線を自分が持った気分になります。

 しかし、重苦しい話は1つもありません。人間はあくまで明るく力強く生きています。千葉も軽妙洒脱なキャラクターで、物語に軽やかさを加えています。ペロッと読めてしまう物語なのですが、不思議な後味の残る作品でした。

 

 

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