【まさかの学園モノ】書評:アクアマリンの神殿/海堂尊
概要
「チームバチスタの栄光」から派生した海堂尊さんの桜宮サーガの一作。「モルフェウスの領域」の続編に当たります。
おすすめポイント
このシリーズには珍しい学園モノのお話。学生の恋愛エピソードや、学園祭の場面、そしてスポ根小説ばりのボクシングの描写もあります。まさに新境地といった感じでした。続編でがらっと空気を換えるという緩急のつけかたがお見事ですね。
感想
主人公の佐々木アツシが中学生から高校生へと成長していく過程を追った物語です。このシリーズは基本的に病院の中で展開されるのでとても新鮮でした。
頭の切れる人たちがロジックでバトルするというところは相変わらずでした。そこが良いんですよね、このシリーズは。クラスを牛耳る学級院長とバトルしたり、担任の先生にたてついたり、スカッと爽快感のあるお話でした。
ただ、ストーリー全体を見るともやっとするところが多かったです。
今回のクライマックスシーンは、アツシが人工凍眠システムの生みの親である西野と勝負をする場面でした。アツシが人工凍眠しているときに面倒を見てくれていた涼子が、「モルフェウスの領域」のラストで自分も凍眠することを選択。「アツシの抱える問題が解決していれば自分の記憶を消し、解決しなければ記憶を消さずに目覚める」という涼子の凍眠間際の言葉をどのように解釈するかを巡ってアツシと西野の意見は対立します。
あっと驚く伏線が張ってあったとか、論理の穴をついた見事なロジック展開とかを期待していたのですが、すっきりしない決着でした。西野は涼子の記憶を消して目覚めさせたいが、その権限がないのでアツシに強要していた。端的に言うとそんな感じでした。
- 結局、アツシの抱える問題とは何だったのかがはっきりしませんでした。涼子がわざとどちらとも捉えられる発言をしたのでしょうか。何のために?涼子の意図がわかりません。
- 西野の行動原理も良く分かりません。涼子はアツシのことを想っているので、記憶を消さないと涼子を自分のものにするチャンスが生まれないと言っていましたが、記憶を失った涼子と恋愛関係になりたいのでしょうか?今までのことは何も覚えていない涼子と?
- アツシの気持ちも良く分かりません。自分が冬眠しているときに記憶の片隅に植え付けられた涼子の笑顔の画像によって、彼の気持ちは涼子に囚われているらしい。じゃあ、目覚めたあとに涼子と一緒になりたいのかというと、彼はラストシーンで麻生夏美を選んでいる。浮気者では?
- 細かいところですが麻生夏美の父親は誰なのでしょうか。物語中で散々言及しておいて、その伏線を最後まで回収しないのがとてもモヤモヤしました。他の作品で登場しているか、これから登場するのかもしれませんが。
読んでいる最中は新鮮で面白かったですが、読み終わったあとはすっきりしないお話でした。
前編はこちら。 こちらは人工凍眠がもしできるようになったとしたらどのようなことが問題になるのか追求しているところが面白かったです。
僕のオススメの本はこちらにまとめています。
B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品