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【統計との付き合い方入門】書評:統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門/ジョエルベスト

統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門

統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門

 

概要

 タイトルだけを見ると、「統計は悪者だ!」と言っているようにも捉えられますが、そういう主張ではありません。統計は時として事実と反することがあるのですが、なぜそういうことが起きてしまうかを分析し、わかりやすくまとめた一冊です。

おすすめポイント

 統計に関する知識は必要ありません。統計(=加工されたデータ)を扱うときに、どのようなことに気を付けたらよいかを教えてくれる一冊です。入門書なので誰が読んでもためになると思います。

感想

 世の中に溢れる統計は、いつも100%正しい事実とは限らない。このことをあらゆる角度から丁寧に解説した一冊です。

 この本の言う「統計」の定義が少し曖昧だなと思ったのですが、生のデータを加工して得られた2次制作物のことだと解釈して話を進めます。

 統計は必ず誰かが作ったものです。何かを主張するために作られています。これが大切な視点です。

私たちは、統計が人間とはまったく無関係に岩のようにそこにある事実であり、石のコレクターが石を拾うように人々が統計を集めるかのごとく、統計について語ることがある。これは間違っている。統計はすべて、人々の行動によって創造される。何をどう数えるかを人間が決定しなければならず、計数その他の計算を人間がやらなければならない。統計はすべて、社会的産物、人々の努力の結果である。

 自分が理系の大学院生だったころ、取得したデータをいかに自分の研究テーマの主張に結び付けるかに苦心をしていました。統計を自分の有利なように作りたいという動機は理解できます。数字には説得力があるからです。

 この本では主に、社会問題を扱うジャーナリズムの分野での統計が語られていますが、理系の研究も、仕事で用いる販売実績資料なども根は同じだなと思います。

 

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 誰かが何かを主張するために統計を用いるときに、その統計が間違っていることがあります。間違っていると知りながらその統計を事実として扱うのは不正なのですが、推測に基づいて数字を算出せざるを得なくなり、その統計の根拠が曖昧になることもあります。そのこと自体は悪いことではありません。

社会問題の規模を推測するのはそれほど悪いことではない。問題の本当の規模は、知りようがないことが少なくない。知識に基づいて推測をするーそして、それが誰かの推測にすぎないことをはっきりさせるーことは、出発点になる。

 しかし統計にはパワーがあります。なので、その根拠の弱い数字が独り歩きをしてしまうことがあります。

問題が起こるのは、人々が推測を事実として扱いはじめ、数字を繰り返し使い、それがどのようにして生まれたかを忘れ、尾ひれをつけ、それを宣伝し擁護しなけれびならいと感じ、本来誰かの推測でしかなかった数字に疑問を差し挟む者を攻撃するになったときだ。

 自分の主張に有利に働くからといって、無意識のうちに統計を間違って解釈してしまうことがあります。その数字がセンセーショナルであればあるほど、より広く拡散されてしまうことになる。間違った統計の方が世の中に広まりやすいという負の一面を持っているのです。悪貨が良貨を駆逐するというやつです。

ある統計の劇的効果を弱める変換は忘れられやすく、劇的な数字は繰り返し伝えられる見込みが大きい。統計版グレシャムの法則である。悪い統計が良い統計を駆逐するのだ。 

 この本は2002年に第一版が書かれた本なのですが、SNSによってフェイクニュースが拡散されてしまう現代を予言していたかのようですね。

 我々は統計を目にしたときに、手放しにその数字を信じてはいけません。統計を呪物のように扱ってはいけない、あきらめて思考を停止することなかれと著者は言います。

私たちは統計を注意して扱わなければならない。これはむずかしいかもしれない。何しろ、統計を呪物のとして扱う人が私たちの社会にこれほど多くいるのだから。これを、畏怖する人々の態度と呼んでいい。批判的に考えず、統計に魔力があるかのように行動する人たちだ。畏怖する人々は、耳にする統計がいつも理解できるわけではないことはわかっているが、それを気にはしない。だいたい、誰が魔術的な数を理解できるだろう。畏怖する人々の敬虔な諦念は深い考えに基づくものではない。思考の放棄なのだ。

 すべては、統計は人の手によって作られるというところに帰結すると思います。この統計は誰が何のために作ったのか。そういう視点を常に持つことが大事ですね。

 

 

 過去に読んだ下記のような本の中でもたくさん統計が使われていますが、手放しにすべてを事実として受け入れるのはよくないということですかね。

ytera22book.hatenablog.com

ytera22book.hatenablog.com

 

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品