【一筋縄ではいかない恋愛】LOVE or LIKE/石田 衣良,中田 永一,中村 航,本多 孝好,真伏 修三,山本 幸久
概要
6人の作家さんによる恋愛小説のアンソロジー。タイトル通り、恋の始まりの微妙な時期が主に描かれます。
おすすめポイント
タイトルを聞くと甘酸っぱい物語を想像しますが、そういうものは少なかったです。含みのある、奥深い恋愛の話が多かったです。
感想
3番目のハミングライフ、5番目のDEAR、6番目のネコ・ノ・デコが心に残りました。どの作品も違ったタイプのお話でした。たくさんの本を一気に読んだかのような満足感を得られます。お腹いっぱいです。
リアルラブ? 石田衣良
純情な二人が「体だけの関係」で恋愛を語るというところに、なんだか矛盾を感じます。わざとそうしているのでしょうか。
『なんだか、世界って大きな詐欺みたいだね』
『あれもある、これもあるって山のようにきれいなページを見せてくれるけど、全部ただの広告なんだ。いざ、ほんとうにほしかったものに手を伸ばすと、絶対にそれは手に入らない。愛だとか、切なくなるほど好きなんて気持ちは、絶対続かないようにできてる』
こういうキレイなセリフにそぐわない、不純な関係が描かれています。なんだか掴みにくい話でした。主人公のキャラもあんまりはっきりしていないような印象。見てるだけで満足、という恋はあるのかもしれないです。
石田衣良さんの別の作品
リンク:【書評】1ポンドの悲しみ/石田衣良 - ネットワーク的読書 理系大学院生がおすすめの本を紹介します
なみうちぎわ 中田永一
別の本の中にも収められている短編です。そちらですでに読んでいました。こんなこともあるものですね。
リンク:【書評】百瀬、こっちを向いて。/中田永一 - ネットワーク的読書 理系大学院生がおすすめの本を紹介します
すごく素敵だなぁと思いました。話がキレイすぎると感じたりもしますが、ありえないことだと割り切って読むと、心が洗われる気がします。
中村航さんの作品は初めて読みました。不思議な言葉遣いですね。
『彼とは1年前に別れました。とても不本意でした。
だけど今、その文章は私の手の中にあった。それはなんだか寂しくもあるが、ちょっと力強い文章だった。小さなシミを洗い流すような、スマッシュで聡明なセンテンスだった。』
始めようとして始まることはなく、終わりにしようと言って終われるものもない。まるで言葉遊びのようです。
『不本意でした、と書いたウロレターを投函しながら、そうだった、と思い出すように思った。この投函をもって、総括としてもよかった。そうだ、と私は思った。終わりにしよう、と言って終われるようなことは、実は始まってもいない。始まってもいなかったのだ。 』
言葉遊びのようですが、何か哲学的なものを感じさせます。個人的には、運命的な何かを信じて生きていく、ということなのかなと思いました。
『多分、猫に誘われてウロをのぞき込んだときから、私たちは始まっていた。そうとしか思えなかった。だって本当は告白なんかより、木のウロに手紙を隠すことや、それを見つ始めようと思って始められることなんてないのかもしれない。だけどじっさいにはそれよりちょっと前に、何かは始まっている け出すことのほうが、ずっとずっと難しいのだ。』
恋の始まりと終わりに関する、不思議な考察でした。
DEAR 本多 孝好
とにかく切ないお話でした。話自体も切ないですが、自分の小学生時代を思い出してしまって切ない切ない。
小学生の性質、というか考え方をカンペキに再現しています。3人の表情の変化まで手に取るようにわかってしまいます。
彼らは「子供だから」という理由で諦めなきゃいけないものがある、ということに薄々気付いてしまっている。どうしようもならないことに、押しつぶされそうになりながらも、懸命に踏ん張っている。
はるかも大人の都合に押しつぶされそうになっている。しかし、本名を使うということで、ささやかな抵抗をしている。そんなような気がしました。
わかれ道 真伏 修三
似たような話が続いてしまったからか、ちょっと印象が薄めです。主人公が腑抜けでもどかしいです。しっかりしろよ、とぶん殴りたくなってしまいます。もっと他人のことを思って生きるべきですよね。それができなかった不器用な時代ということでしょうか。
ネコ・ノ・デコ 山本 幸久
広げた風呂敷がそのままに終わってしまうタイプのお話でした。はっきりとはしませんが、みんな大変な思いをしており、いろんな過去を抱えています。しかし、何があっても頑張るしかないのだなぁ、と思わせてくれました。
不思議と前向きな気持ちになれました。「頑張る人は救われる」と、暗に伝わってくるからかもしれません。どんなことがあったって、全力で生きている人は素敵です。