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【これが天才ってやつ?】蛇にピアス/金原ひとみ

蛇にピアス (集英社文庫)

蛇にピアス (集英社文庫)

 

概要

 金原ひとみさんのデビュー作にして芥川賞を受賞した作品。受賞した時に20歳ぐらいだったので、もしかしたら10代のときに書いた作品かもしれません。若者の心の内を、若者にしかできない書き方で描いた作品です。

おすすめポイント

 読む人によって反応は様々でしょう。嫌いな人はまったく合わないと思います。ピアスの話とか、痛いですし。でも僕は、読むのをやめられませんでした。上手く言葉にできませんが、芥川賞の選考委員たちをうならせた、圧倒的な才能を僕は感じました。あなたはどうでしょうか。

感想

 序盤はどんより、気だるく進んでいきます。僕とはまったくかかわりのない、アンダーグランドな世界です。どこか楽しげな雰囲気さえ感じます。

「でも今はアマの気持ちが分かる。私も今、外見で判断されることを望んでいる。陽が差さない場所がこの世にないのなら自分自身を影にしてしまう方法はないかと、模索している。 」

 僕は奇抜な格好をする人にまったく共感ができないのですが、あの人たちはこんな考え方をしているのでしょうか。「陽が差さない場所がこの世にない」というのはまぁ納得できます。「陽」とはおそらく希望や正義といった類のものであり、それはきっとどんな場所にでも存在しているでしょう。しかしそこでなぜ自分自身を影にしたいのでしょうね。反抗心でしょうか?よくわかりません。

「刺繍が完成して、スプリットタンが完成したら、私はその時何を思うのだろう。普通に生活していれば、恐らく一生変わらないはずの物を、自ら進んで変えるという事。それは神に背いているとも、自我を信じているともとれる。私はずっと何も持たず何も気にせず何も咎めずに生きてきた。 きっと、私と未来にも、刺繍にも、スプリットタンにも、意味なんてない。 」

 なんとも投げやりな人生観です。ピアスを開けることは「神に背くこと」とはまた変わった考え方ですね。親からもらった体を変形させるというニュアンスでしょうか。理解できないということはないのですが・・・。

 真意が分からないということはさておき、この2つの文章だけとって見ても文才というものを感じてしまうのは僕だけでしょうか。言葉遣いが丁寧、繊細かつ、表現方法は独特で思わず引き込まれてしまいます。なんだか、ただただすごいなぁと思ってしまいます。

 物語は、例の事件発覚から落ち気味になっていきます。どこまでも落ちていきます。痛切。悲痛。そんな言葉がぴったりの様相。このままどうなってしまうのだろうというところまで来たところで、発覚する衝撃の事実。そして最後になぜか復活の兆しが見えてしまう。もう最後の展開は怒涛すぎて、ついていくので精一杯でした。いったい、主人公にどういう心の変化があったのか。真相はなんなのか。何一つわからぬままです。

 解説を書いたのは村上龍さん。解説の中で、主人公の気持ちは不明だと書いています。誰にもわからない、作者にも、ましてや主人公本人にもわからない感情。そんなものがあったっていいじゃないかと言っている。そういう表現できないものはある、と。うーん。そうかもしれないですが・・・。うーん。

 真実はなんだったのでしょうか。シバさんが最強のサディストで、アマに暴虐の限りを尽くしたんでしょうかねぇ。そこに生まれた罪の意識が、今後シバさんを縛っていくから、ルイは「きっと私のことを大事にしてくれる。大丈夫。」なんて思ったのでしょうか。僕の陳腐な想像力では、こんな浅い考えしか浮かんできません。

 なんだかよく分からないままに終わってしまいましたが、惹きつけられるものがあったのか、読むスピードは落ちませんでした。なにかピリピリとしたものが刺さってくる印象でした。これが天才ってやつなのでしょうか。