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【なぜ7割の働き蟻はサボる?】書評:働かないアリに意義がある/長谷川英祐

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

 

概要

 アリやハチなど、「社会」を作る虫の研究のお話。「働きアリの7割は働いていないのはなぜか」など、昆虫社会の不思議な現象を解説していきます。

おすすめポイント

 人間の社会と大きく違うこともあれば、なんだか似ているところもあって興味深かったです。なぜそんな社会性を持つようになったのか、という切り口から、最終的に生物の進化の謎にまで話が及びます。小さな小さな虫たちの世界から、人間の社会を飛び越し、ダーウィンの進化論の果てへと至る展開は、科学の面白さを存分に見せてくれました。

感想

サボる働き蟻の役割

 働き蟻の7割はサボっている。働き者だから働き蟻という名前がついているはずなのに、なんたる矛盾でしょうか。しかし、7割がサボることによって、巣全体の存続が保たれているのです。鍵となるのは個々のアリ達の仕事に対する反応の仕方です。仕事をする必要が生じた時、アリたちは外界から刺激を受け取るわけですが、その刺激に反応する閾値が様々に異なっているらしいのです。

『働いていたものが疲労して働けなくなると、仕事が処理されずに残るため労働刺激が大きくなり、いままで「働けなかった」個体がいる、つまり反応閾値が異なるシステムがある場合は、それらが動き出します。それらが疲れてくると、今度は休息していた個体が回復して働きだします。こうして、いつも誰かが働き続け、コロニーの中の労働力がゼロになることがありません。一方、みながいっせいに働くシステムは、同じくらい働いて同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間がどうしても生じてしまいます。』

 

 みんながみんなバリバリ働く働き者だとしたら、巣全体が危機に陥るかもしれない。効率的に分業することによって、柔軟性をもたせているわけですね。昆虫の脳みそは小さいですから、臨機応変な対応はできないでしょう。だから、このような個性を活かすシステムを構築しているのです。ものすごい生命の神秘。感動しました。

『ムシ社会が指令系統なしにうまくいくためには、メンバーのあいだに様々な個性がなければなりません。個性があるので、必要なときに必要な数を必要な仕事に配置することが可能になっているのです。このときの「個性が必要」とは、すなわち能力の高さを求めているわけではないのが面白いところです。仕事をすぐにやるやつ、なかなかやらないやつ、性能のいいやつ、悪いやつ。優れたものだけでなく、劣ったものも混じっていることが大事なのです。』

 

 では、人間の社会はどうでしょうか。例えば会社の生産性を上げるためには、できるだけ同質の社員が同じ時間だけ働くことを要求しているのではないではないかと僕は思います。そもそもアリと人間は全く違う生き物なので、比べてもしょうがないのかもしれませんが、組織に個性豊かなメンバーがいることの強さを見つめなおすきっかけにはなると思いました。僕の実生活を考えるなら、サークル活動でしょうか。いろんな大学のいろんな学年のメンバーがいることが、サークルが何年にも渡って活気を維持できる鍵なのかもしれません。

生物の進化と社会性

 蟻はなぜこんな複雑な社会を作り上げることになったのか、ということまで話が及びます。ダーウィン自然選択説に触れつつ、生物の進化についての研究の歴史が紹介されます。その中で気になったのはこの一節。

『進化は、永遠に終わることのない過程ですが、もしも「完全な適応」が生じれば進化は終わります。私は講義のなかで学生に「すべての環境で万能の生物がいれば、進化は終わるのか?」という問いを必ず投げかけます。全能の生物がもしいれば、どのような環境でも競争に勝てるため、世界にはその生物しかいなくなるからです。進化とはそんな、存在しない「神」を目指す長い道行きだともいえるでしょう。と同時に、なぜそのような生物が存在しないのか、理由を考えることも、生物を理解するうえでは大切な姿勢だとあえるでしょう。』

 

 どんな環境でも生きていける生物が登場したら進化は終わる。広い意味では人間が一番「神」とやらに近いのかもしれません。なぜなら人間は厳しい環境下でも生きてけるシステムを整えてきたからです。しかし僕らは個体としては弱い。だから社会を作っている。社会は複雑になりすぎて、非効率的な面も生じてしまっています。でも、僕達の祖先はこのような生き方を選んだのです。だから僕らもこの生き方を続けていくしかないのでしょう。進化の歴史を紐解いてみると、やはり僕らは社会というものからは逃れらない運命にあるのだということがわかりますね。

 小さな蟻の社会の話から、人間の社会、ひいては生物の進化の歴史までつながっていく壮大な一冊でした。どこを読んでも面白く、知的好奇心を満たされ、そして社会に属している自分の存在を見つめなおすきっかけにもなりました。ぜひ皆さんにおすすめしたいです。というわけでAランクに入れておきます。

 

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B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

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