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【まさかの大転回】書評:生存者ゼロ/安生正

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

概要

 第11回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作です。洋上の石油採掘プラットフォームの職員が全滅。危機は北海道から全国へと広がる兆しを見せます。ネタバレすると面白さ半減なのでお気をつけてください。(感想以降はネタバレします) 

おすすめポイント

 壮大なスケールと緻密な描写で引き込まれる作品でした。ストーリーも一筋縄ではいかない波乱に満ちた展開で、最後まで面白く読めました。

感想 

 主人公は自衛隊員の廻田。自衛隊の装備等が丁寧に書かれているので、そちらが好きな方は楽しめると思います。

 序盤の雰囲気は高野和明さんの「ジェノサイド」に似ています。謎の出撃要請から始まる人類滅亡の危機。知恵と勇気を武器にして、人類存続をかけた闘いが始まります。

 謎の感染症によりプラットフォームが全滅したという設定で感染症との戦いを描くのかと思いきや、中盤での大転回の末にまさかの犯人はシロアリ。この大胆な方針転換が面白かったですね。廻田と一緒に感染症の対策を考えていた読者は、方針転換を余儀なくされるわけです。シロアリに勝たなきゃいけないのかと。

 もうひとつ僕がいいなと思った点は、男気あふれる廻田の覚悟です。自分の部下をみすみす自殺させてしまった彼の行動は、とても力強いのに悲壮感を漂わせます。地獄よりも辛い「生」があり、その辛さと折り合いをつけるために彼は人類のためにシロアリとの戦いに身を投げ出します。頼りになる仲間が現れるのが唯一の救いでした。

 「パウロの黙示録」とやらが繰り返し出てくるのですが、いまいちピンときませんでした。スピリチュアルな世界に引き込まなくとも、自衛隊員の心意気と生物学の奥深さを両輪に据えただけで面白いのになと思ってしまいました。あれだけ酷い厄災がふりかかったときに、神様を意識してしまうのは当然だとは思いますが。 

 その辺は深く考えずに流れを楽しむといいのではないかと思います。怒涛の展開を全身で受け止めましょう。「このミス」にしては少し長いですが、ハマれば一気読みできるかもしれません。

 

 

 そのほかのこのミスシリーズ。一番のオススメは「さよならドビュッシー」です。

 

こちらも哲学的で面白かったです。

 

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