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【見えない心に謎がある】書評:満願/米澤穂信

 

満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

 

概要

 ミステリー短編集としては史上初めて三冠を達成した作品です。ミステリー作家としての米澤穂信さんのすごさがぎゅっと詰まっています。

おすすめポイント

 6つの短編を貫く共通のテーマがあり、そのテーマに沿って書かれているのに、毎回毎回あっと驚く結末が用意されています。すごいの一言です。

感想

 文庫版の解説で綺麗に言語化されていますが、収められている6つの短編には共通したテーマが設定されています。「外からは伺い知れない人間の本性」と言ったところでしょうか。それが必ず現れる短編になっています。

 最後の最後でその本性が読者の前で露わになり、あっと驚くオチがつくというお話たちが収められています。短い文章の中で、よくもまあこんなに綺麗にやれるものだと感心してしまいます。

 人間が中心となるミステリーなんですよね、どれもこれも。人間というのは不合理な生き物で、外から見ると不可解でも、当人にとってはそうするしかないという道に追い込まれていたりするものです。

 短編集を通してのテーマが直接語られることはないのですが、読んでいるときの手触りが似ていて、次は一体どんな物語が来るのかと身構えてしまいます。でも、シチュエーションは全然違うのがまた面白いところだったり。新鮮な気分で読み進めていると、あっという間にオチがついて、いつの間にか全部読み終わってしまっている作品でした。

1.夜警

 ベテラン警部「柳岡」が主人公で、最近配属された新米警察官「川藤」の知られざる心の葛藤を追憶するという物語。短編の初っ端なのでどんなオチがつくのか全くわからなかったのですが、綺麗にすべて伏線になっていてびっくりしました。拳銃の扱い方など、すべてが繋がっていたのですね。

2.死人宿

 主人公が失踪した元恋人「佐和子」に会いに行くという場面からスタート。佐和子は自殺の名所として知られる宿で働いていて、主人公が彼女のもとを訪れた日にも遺書が見つかります。

 主人公は典型的な男性で、恋人の心の動きが読めません。外からはわからない人物として佐和子が描かれています。それに加えて、遺書の持ち主は誰だろうかと必死に考える主人公にとっては、自殺を考えている本人の気持ちも読めない。ブラックボックスが2つ。

 オチがさらに秀逸で、まさかのところで3つ目のブラックボックスが用意されています。主人公と一緒に声をあげてしまいそうになる、素晴らしいミステリーだなと思いました。

3.柘榴

 母親の目線から、何を考えているのかわからない恐ろしい娘である「夕子」と「月子」を見つめる物語。これはさすがに理解が及ばなかったです。

 働かないくせに不思議な魅力で女性を虜にしてしまう「佐原成海」という存在が、自分にはイメージできませんでした。自分が男だから当然ですかね。もしかしたら嫉妬も含まれているのかも。

4.万灯

 仕事一筋の商社マン「伊丹」が主人公。この作品だけは、読者から心が伺い知れない人物が出てこなくて、主人公自身が外界から隔絶されてしまった存在として描かれます。

 油田開発の進捗がなかなかリアルに描かれていて、商社マンは本当に大変なんだなと勉強になりました。

 予想外の方向から主人公が罰を受けてしまうオチでした。自分も仕事人間なので、主人公は可哀そうだなと少し同情してしまいますが、やっぱり悪いことをすると罰を受けるのだなあと思いました。

5.関守

 ライターの主人公が、交通事故が連続する不思議な峠を取材するお話。

 外から伺い知れないのは誰なのかと物語を追っていくと、ドライブインの店主のお婆さんだと気づきます。しかし気づいたときにはもう遅い、という恐ろしいオチ。途中から怪しいなとは思いつつ、自分も主人公と同じぐらいのタイミングで気づいたので、ダメでしたね。

6.満願

 主人公は弁護士。学生のころに下宿させてもらっていた家の夫人「妙子」が、殺人事件を起こしてしまい、彼女の弁護を引き受けます。作品のタイトルにもなっていて、まさに6編を代表する1作。

 外からは伺いしれなかった妙子の真意に、最後の最後で気づかされるというオチ。あの骨とう品にそこまで執着する理由は少し弱かったかなと思いました。

 

 米澤穂信さんの作品はこれが一番好きです。

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