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【日本組織の失敗研究】書評:転落の歴史に何を見るか/齋藤 健

増補 転落の歴史に何を見るか (ちくま文庫)

増補 転落の歴史に何を見るか (ちくま文庫)

  • 作者:齋藤 健
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本
 

概要

 「日露戦争で輝かしい勝利を収めた旧日本軍が、なぜ第二次世界大戦では愚かな組織に成り下がってしまったのか」という分析を通して、日本組織の失敗の典型例を探っていく一冊です。 

おすすめポイント

 丁寧に一次資料を集めて、歴史の本質に迫ろうとする著者の真摯な姿勢に頭が下がります。ミリタリーものとしても面白いですし、ビジネス系の組織論としてとらえても勉強になります。

感想

 著者の齋藤健さんは経済産業省の官僚から埼玉県の副知事を歴任されています。「官」と「政」の立場から、日本をよりよくするためにはどうしたらよいかを常に考え続けられている方です。そのヒントを求めるために、概要で書いた日露戦争後の没落の歴史を紐解き、この本が執筆されました。

 第1章でその内容が展開されています。明治維新を経験したジェネラリストがキーマンとなり、日露戦争は世紀の大勝利を収めることができたものの、日露戦争後は軍学校出身の軍事スペシャリストが実権を握ったため、局所最適の目線でしか物事が見れなくなり、太平洋戦争では迷走が続いてしまった、というのが大筋です。

 軍事的観点から歴史を読み解くミリタリー系の読み物としても面白いのですが、組織論としてこの分析が展開されていて、会社組織のヒントとなるビジネス書ともとらえられるのが面白いところです。

 部署異動を繰り返したジェネラリストと、専門知識1点突破のスペシャリストを比べたときに、最近はスペシャリストの方が高く評価される風潮にあると思います。しかしこの本では、自分の目の前の局所最適に陥らずに、組織全体の利益を優先して動けるだけの幅広い知識を身に着けたジェネラリストが組織には必要なのだという主張がなされているのがとても興味深かったです。

 ただ、この本で言うところのジェネラリストには非常に高い素質が求められるのだろうなとも思いました。会社に言われるがまま部署異動を繰り返し、漫然と仕事をこなしているだけでは、誇れる分野のない器用貧乏になってしまうのだろうなと。日露戦争を勝利に導いた政治家たちは、様々な学問を究め、政治の世界以外でも様々な経験を積んでいたとのことです。複数の分野で物事を究めることで、大局的なジャッジができるようになるのだろうなと、自分は思いました。

 

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 第2部では世代論が展開されていました。明治維新を経験したジェネラリスト的世代と、その後の軍事的エリートが活躍した世代、さらにその間の世代で、戦争への考え方や果たすべき役割が異なっていたこと、そしてそれは現代で言うところの団塊の世代団塊ジュニアの世代などに当てはめることができるなどという話が展開されていました。

 少し前に書かれた本なので、団塊の世代がちょうど50代ぐらいだと言われていましたが、今はさらに時代が進んでいます。この世代論はちょっと過去のものになってしまっているなという感想でした。

 

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 第3部では、主に第1部の内容について行われた対談の様子が収録されています。第1部同様興味深い内容でした。

 

 

 組織論