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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【少しモヤモヤ】誰か―Somebody/宮部みゆき

 

誰か―Somebody (文春文庫)

誰か―Somebody (文春文庫)

 

概要

 杉村三郎シリーズ1作目です。2作目は『名もなき毒』、3作目は『ペテロの葬列』。これらは映像化もされていますね。この作品では財閥会長の運転手がひき逃げ事故に遭い、主人公はその運転手の過去を辿ることになります。

おすすめポイント

 ストーリーだけ見ると、ほとんど起伏のない地味なお話でした。それにもかかわらず、飽きずに最後まで楽しめるのが宮部さんのすごいところだと思います。大体の真相が分かってきても、続きが気になってしまいます。文庫版の解説で詳しく触れられているので、解説も読んでみてください。

感想

 宮部さんの作品ということで、期待を持ちすぎるとちょっと肩透かしを食らうのかもしれません。amazonのレビューには辛口なコメントが多いような気がします。今回はエンターテイメント性を抑えた作品だったように感じました。

 主人公を取り巻く環境が面白いですね。自分は平凡な家庭で育ったのだが、お嫁さんは大財閥の会長さんの娘。つまり義父が大金持ち。続編が書かれていますので、宮部さん本人もこの設定は気に入ったのかもしれません。

 主人公夫婦には相容れることのできない壁があります。その壁を認識し、自分が折れることによって円満な家庭を維持しようと主人公は努力します。同じような努力は至る所で見られます。不思議なキャラクターだなぁと思って読んでいました。

 タイトルの「誰か」に関して、こんな言葉が登場します。「彼女は分かっていたのだ。言われるまでもなく、心では知っていた。それでも、誰かの口からそう言って欲しかったのだ。わたしたちはみんなそうじゃないか?自分で知っているだけでは足りない。だから、人は一人では生きていけない。どうしようもないほどに、自分以外の誰かが必要なのだ。」この言葉はピンポイントなタイミングで使われた言葉です。しかし、僕はこの作品を貫くテーマに通ずるものだと思います。人と人のつながりは深い、ということが描かれているような気がしました。

 これも多くの方が思うことかもしれませんが、終わり方があまり好きではないです。なぜ、最後の最後にあのような出来事が用意されるのでしょうか。正直、あの着メロの伏線はバレバレだったので、何か別の意図があったのかもしれないですね。実は思わぬ出来事とリンクしていたり、とか。考えすぎでしょうか。とりあえず、続編も読んでみようと思います。