ネットワーク的読書 理系大学院卒がおすすめの本を紹介します

本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【残業を減らせ】書評:人間使い捨て国家/明石順平

 

人間使い捨て国家 (角川新書)

人間使い捨て国家 (角川新書)

 

概要

 著者はブラック企業訴訟に数多く携わってきた弁護士。人間を使い捨てるように働かせる日本企業の問題点を糾弾し、解決策を提言する一冊です。

おすすめポイント

 僕自身の肌感覚として、本書の主張は真っ当だなと感じました。労働者にきちんと対価を払い、稼いだお金を消費に回してもらわないと日本全体が沈没していってしまうのではないかと思います。

感想

 「人間使い捨て国家」。なかなかインパクトのあるタイトルだと思いませんか。センセーショナルなタイトルを付けて、なかば炎上気味に売り上げを取りに来ている本なのかなと読む前は思っていました。

 著者は労働問題をメインで扱う弁護士さん。彼の主張を端的にまとめたタイトルが「人間使い捨て国家」であり、最後まで読むと良いタイトルだなと思うようになりました。日本の法律が、人間の使い捨てを助長するものになっている現状を鋭く指摘した一冊です。

現状

 経団連と密接に結びついた自民党政治、そしてアベノミクスの負の側面が、最近ようやく顕在化してきているように思います。自分の仕事を通して日本の消費者の動向を見たときに、明らかに悪くなってきているのです。

 日本人にはカネがありません。しかも、カネだけでなく時間もないようなのです。長時間低賃金労働で、消費がどんどん縮こまっています。もともと、自民党の政治には反対派ではなかったのですが、時間をかけてゆっくりと、日本の経済が悪い方向へと進んでしまったのかもしれないと思うようになりました。

 企業や経営者を第一に考えた政策を実行していると、消費者の生活が苦しくなり、結局は企業の業績が悪くなってきます。それが目に見える形で表れてくるまでに、時間がかかったということなのでしょう。

解決策

 本書で多くの紙面が割かれているのが、残業代の支払いをあの手この手で回避しようとする企業の実態であり、それを防げていない法体系の話です。法律を厳格化して、ちゃんと残業代を支払わないといけないようにすれば、残業代を抑えるために残業そのものが抑制されてくるだろうというのが筆者の主張です。

 いまはそれなりに景気が良いので、残業そのものは減らないのではというのが僕の肌感覚ではありますが、残業代が増えればその分だけ消費に回ることになるでしょう。最近、有給消化が厳しく監督されるようになったので、僕の会社でも有給に関する制度が変わりました。正しく法律を変えれば、その効果はちゃんと出てくると思います。

 そのほかにもいろいろな提言がなされていますが、メインの主張はとにかく残業をなんとかしろというふうに僕は受け取りました。長時間低賃金労働になっている一番の原因は残業代が支払われないことだと思います。企業の業績に大きく影響することなく、少しずつ良い方向に変わっていくと良いですね。

 

 

労働に関する本。

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【結婚式場のドタバタ】書評:本日は大安なり/辻村深月

本日は大安なり (角川文庫)

本日は大安なり (角川文庫)

 

概要

結婚式場の1日を追いかけていく群像劇形式の長編小説です。この日執り行われれる4組の式には、それぞれ問題がありました…。無事に幸せな式を上げることはできるでしょうか?

おすすめポイント

 最近友人の結婚式に立て続けに出席した自分としては、なかなかリアルな話だなと思いながら読んでいました。辻村深月さんらしいミステリー調の展開で、先が気になるお話の作り方でした。

感想

 4組が1つの会場で式をあげる様子を描いていきますが、それぞれの物語の重なりは大きくはありません。それぞれに1つずつのドラマがあります。

相馬家・加賀山家

 双子姉妹である新婦の、姉と妹の両方の目線からお話が展開されていきます。双子ならではの、そして女同士ならではの繊細でややこしい問題が丁寧に紡がれます。辻村さんらしいなあと思いながら読んでいました。良く似ている双子だけに芽生えてしまう対抗意識のようなものは、さすがに双子じゃないとわからないなあという感じでした。

十倉家・大崎家

 この式を担当するウエディングプランナー山井の目線で語られます。1番面白かったです。

 嫌なクライアントに当たってしまった担当者の苦悩のお話です。しかもウエディングプランナーは相手の幸せを願わなければならない仕事。この仕事ならではの葛藤に焦点を当てたお話でした。

 辻村さん自身が結婚式場を取材されたようで、本当にこんな苦労があるんだろうなと同情してしまいます。ウエディング業界の裏側に踏み込んだ内容でもあり、一生に一度だからという理由で高いお金を払ってもらうことを、リアルに描いたお話でもありました。

東家・白須家

 新婦の弟の目線から展開されます。親から結婚にケチをつけられたカップルのお話。これもあるあるですね。終始、子供の勘違いだったという結論ありきでお話が進んでいる感じがあったのであまり好きなタイプではありませんでした。

鈴木家・三田家

 新郎の目線なのですが、すべてが清々しいほどのクズ男な新郎のふるまいに終始イライラさせられっぱなしのお話でした。別作品のキャラが絡んでくるお話なので、そこに見せ場を作りたかったのかなと思いました。

別作品とのつながり

 辻村深月さんの作品は、緩い繋がりが形成されていることが多いです。今回も2点ありました。

狐塚、恭司、月ちゃん

 東家の物語で登場する狐塚は狐塚孝太、恭司は石澤恭司。どちらも「子どもたちは夜と遊ぶ」の登場人物です。名前を隠すことが多いですが、今回はストレートに登場してきました。

 二人は大学の同級生で、新郎の東も同じ大学だったということでした。「子どもたちは…」は、狐塚は大学院へ進学し、恭司は商社に就職したものの辞めてフリーターになった頃の物語でした。この時間軸ではどんな生活を送っているのでしょうね。

 恭司が「月ちゃん」と呼ぶ友達が、鈴木家のクズ男の彼女の貴和子と友達ということでした。「月ちゃん」は「子どもたちは…」の月子でしょうね。

礼華女子高

 貴和子と、加賀山家の双子の妹である妃美佳は礼華女子高の出身とのことでした。この高校は「名前探しの放課後」の登場人物である椿が通っているお嬢様高校ですね。

 作中で椿には言及していなかったように思います。彼女たちの年代が近いかどうかはわかりませんからね。一方、貴和子と妃美佳は年齢的には近いはずですが、この二人のかかわりも特に示唆されませんでした。

  

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

合わせてどうぞ。

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【解説が本編】書評:V.T.R./辻村深月

V.T.R. (講談社文庫)

V.T.R. (講談社文庫)

 

概要

 「スロウハイツの神様」の登場人物「チヨダコーキ」のデビュー作をそのまま文庫にしたという、面白い建付けの作品です。「スロウハイツ」を読んだあとに、表紙や帯や解説まで含めて楽しむのが正しい味わい方です。

おすすめポイント

 短い作品なので、「スロウハイツ」と一緒にぺろっと読んでしまうのがオススメです。赤羽環はこういう作品に影響を受けて育ってきたんだなというところがとても感慨深い一冊でした。

感想

 最後のたった数ページなのですが、赤羽環による解説が本編みたいなところはあるかなと思いました。そもそも環のメッセージそのものにもすごく共感するのですが、「スロウハイツ」で起こった出来事を乗り越えた彼女の心境が透けて見えて、立体感を感じられる構造になっています。

こんなにおいしいケーキを、日常のものとして知っている作家と、田舎で彼の本を読むことしかできない自分とが、なんて遠いのかと、それを思うと、涙が出た。

  「スロウハイツ」の出来事が起きる前、赤羽環とチヨダコーキの間には、こんなにも距離があったんですよね。その隔たりを、環は文字通りの死に物狂いで飛び越えていき、いまではこんなに偉そうに解説を書くまでになっているのです。感慨深い。

 幼少期に環がどんな想いでチヨダコーキの本を読み、その経験をいまどう思っているのかが、短い文章ですが克明につづられていきます。「スロウハイツ」の中では多くを語らなかった彼女の、熱い想いを感じ取れます。

人は誰も、十代の頃に自分にとっての「神様」と呼べる存在と、一生ものの出会いをする。それは、現実の誰かでも、芸能人でも、作家でも、歌手でもいい。そんな出会いに心当たりがないという人がいるとしたら、気の毒に思う。十代の頃、誰とも出会わなくてももちろんいい。問題なくそれで生きていけるなら、そんなまっとうな生き方は素晴らしいとさえ思うが、私にはできない。そして、神様は確実に、私の人生を豊かにしてくれた。

 この文章の内容にはそもそもすごく共感するのですが、環が言うからさらに説得力があるんですよね。幼少期にチヨダーキの本をむさぼるように読んだ経験を礎にして、彼女は脚本家としての才能を爆発させました。それと同時に、辛い境遇に置かれても彼女はめげずに歯を食いしばって生き延びることができました。バックグラウンドを知っているからこそ、環が書いた解説の行間が読めるような仕掛けになっていて面白いです。

鈍化した大人が薦める読み物や、何ら魅力を感じない文化の対岸にある、エッジの立った本を探して読み、アニメや漫画に触れて、歌を聴き、「ここが時代の最先端」と思えることは、あなたたちの特権だ。どうぞ、権威の向こう側に行った愚鈍な大人を思う存分バカにして、彼らに向けて言葉の引き金を引いてほしい。

 僕自身、20代の後半に差し掛かり、さらにゲームを作るという仕事をしている関係上、環の言っていることにすごく共感ができます。10代のころのように夢中になってゲームにプレイできなくなった自分が、環の言葉を借りるなら、権威の向こう側に行ってゲームを作っているのです。時代の最先端は、いまの10代にあるということを、忘れずに生きていきたいですね。

 

*****

 

 幼少期にハマったコンテンツは、自分の”芯”になります。ゲームを作るときは今までの自分のゲーム体験を振り返る機会が多く、「このゲームのココが面白かった」という記憶はある種の財産になって、いまの自分の仕事を支えてくれています。

 この解説が書かれたのが「スロウハイツ」のころから何年経過したのかはわかりません。環は解説の中で「余生を生きるクリエイターの一人」と自らを称していますが、実際そんなにおばあちゃんになったわけでもないはず。この言い方が面白いなと思ったのは、楽しむ側から作る側に回った人間は、エンターテインメントの世界では”老いた側”という見方です。

 ゲーム業界だとまだまだヒヨコのような若輩者の自分ですが、実は広い目でみると自分はもう”老いた側”である。大切なことを再認識させてもらいました。ちゃんとお客さんの方を向いて商売していきたいものですね。

 

*****

 

 「V.T.R」の話に戻りましょう。この作品はチヨダコーキのデビュー作です。つまり、「スロウハイツの神様」で描かれていたストーリーが展開されるよりもずっと前に書かれたお話。彼らがまだ出会っていなかったころに発表された物語ということになります。

 「スロウハイツ」との関わり方でもっとも大きなものは、解説で環が書いていたとおり、幼少期の環が貪るように読んだ中の一作ということだけです。実はそこまで大きくはありません。

 アールの生き方が環のようだなという考えが一瞬頭をよぎるのですが、「V.T.R」が書かれた時点でチヨダコーキは環のことを知らないわけで、むしろ環がアールのようになったと捉えられる時系列です。解説の中ではアールのファッションにあこがれていたエピソードが記されていて、内面のことはとくに語られていません。そこまで書くのはさすがに個人的すぎて、恥ずかしかったのでしょうか。

 チヨダコーキはこういう物語を書いていたのだなと知れるのも面白いポイントですね。たしかにこれは小中学生が好きそうなお話だなと。辻村深月さんは普段こんな文体では書かないので、別人格を筆に乗り移らせたのだなと思うと、作家さんってすごいなと感心してしまいます。

 

 

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【経営戦略の名著】書評:企業参謀―戦略的思考とはなにか/大前研一

企業参謀―戦略的思考とはなにか

企業参謀―戦略的思考とはなにか

 

概要

 大前研一さんの名著。何度も改定を重ねられています。初期の部分は1975年に書かれたということで、実に40年以上も前なのですが、全く色あせない面白さがあります。

おすすめポイント

 難しい内容のはずなのに、不思議と簡単に読めてしまうのがすごいところです。僕は経営に直接かかわったことはないのですが、意外と内容が理解できるものだなと驚きました。著者の技量の高さを思い知ります。

感想

 「企業経営を戦略的に考える」というテーマは、ものすごく需要がある一方で、会社ごとに状況が全く異なるため、一般化しにくいと思っています。経営戦略を助けることを仕事としているのがコンサルティング会社であるわけで、大前さんはマッキンゼーで働いていた中で得た知識をわかりやすく解説してくれています。いろんなノウハウがあるのだなあと勉強になりました。

 戦略的思考とは何かということを突き詰めた、次の一文が心に残りました。サラリーマンとして求められる技量そのものだと思います。

私が戦略的思考という場合には、戦うときと退くとき、また妥協の限界を常に測定しながら、究極的には、自分にとって最も有利な条件を持ち込む、柔軟な思考方法を指している。状況の変化によって、最も現実的な解を導き出せる頭脳の柔軟さを指す。白か黒でないと、考えられないというような硬直した頭ではなく、どのくらいの灰色までなら妥協してもよいかを判断できる人物が戦略的思考家である。

 いろいろなトピックについて書かれていますが、PPM(Product Portfolio Management)については多くの紙面が割かれていて、知識ゼロだった自分もだいぶ理解が深まりました。そんな業態であっても、どの製品にどのぐらいのリソースを投入すべきかというのは最重要の検討課題なので、こういうフレームワークを知っていると役に立ちそうだなと思いました。

 いろいろなことが網羅的に書かれている本ですが、ここに書かれていないことはなにかを考えるのも面白いかもと思いました。この本が書かれた当時は、ソフトウェア産業がまだ発達していなかったのですね。マイクロソフトGoogleなどがまだ出現していない時代。ソフトウェアは材料や原価をあまり考えないため、ゲームチェンジが起きた事例ですよね。企業を経営していくという本質においては、あまり変わらないのかもしれませんが。

 

 

その他ビジネス関連の本。

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【見えない心に謎がある】書評:満願/米澤穂信

 

満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

 

概要

 ミステリー短編集としては史上初めて三冠を達成した作品です。ミステリー作家としての米澤穂信さんのすごさがぎゅっと詰まっています。

おすすめポイント

 6つの短編を貫く共通のテーマがあり、そのテーマに沿って書かれているのに、毎回毎回あっと驚く結末が用意されています。すごいの一言です。

感想

 文庫版の解説で綺麗に言語化されていますが、収められている6つの短編には共通したテーマが設定されています。「外からは伺い知れない人間の本性」と言ったところでしょうか。それが必ず現れる短編になっています。

 最後の最後でその本性が読者の前で露わになり、あっと驚くオチがつくというお話たちが収められています。短い文章の中で、よくもまあこんなに綺麗にやれるものだと感心してしまいます。

 人間が中心となるミステリーなんですよね、どれもこれも。人間というのは不合理な生き物で、外から見ると不可解でも、当人にとってはそうするしかないという道に追い込まれていたりするものです。

 短編集を通してのテーマが直接語られることはないのですが、読んでいるときの手触りが似ていて、次は一体どんな物語が来るのかと身構えてしまいます。でも、シチュエーションは全然違うのがまた面白いところだったり。新鮮な気分で読み進めていると、あっという間にオチがついて、いつの間にか全部読み終わってしまっている作品でした。

1.夜警

 ベテラン警部「柳岡」が主人公で、最近配属された新米警察官「川藤」の知られざる心の葛藤を追憶するという物語。短編の初っ端なのでどんなオチがつくのか全くわからなかったのですが、綺麗にすべて伏線になっていてびっくりしました。拳銃の扱い方など、すべてが繋がっていたのですね。

2.死人宿

 主人公が失踪した元恋人「佐和子」に会いに行くという場面からスタート。佐和子は自殺の名所として知られる宿で働いていて、主人公が彼女のもとを訪れた日にも遺書が見つかります。

 主人公は典型的な男性で、恋人の心の動きが読めません。外からはわからない人物として佐和子が描かれています。それに加えて、遺書の持ち主は誰だろうかと必死に考える主人公にとっては、自殺を考えている本人の気持ちも読めない。ブラックボックスが2つ。

 オチがさらに秀逸で、まさかのところで3つ目のブラックボックスが用意されています。主人公と一緒に声をあげてしまいそうになる、素晴らしいミステリーだなと思いました。

3.柘榴

 母親の目線から、何を考えているのかわからない恐ろしい娘である「夕子」と「月子」を見つめる物語。これはさすがに理解が及ばなかったです。

 働かないくせに不思議な魅力で女性を虜にしてしまう「佐原成海」という存在が、自分にはイメージできませんでした。自分が男だから当然ですかね。もしかしたら嫉妬も含まれているのかも。

4.万灯

 仕事一筋の商社マン「伊丹」が主人公。この作品だけは、読者から心が伺い知れない人物が出てこなくて、主人公自身が外界から隔絶されてしまった存在として描かれます。

 油田開発の進捗がなかなかリアルに描かれていて、商社マンは本当に大変なんだなと勉強になりました。

 予想外の方向から主人公が罰を受けてしまうオチでした。自分も仕事人間なので、主人公は可哀そうだなと少し同情してしまいますが、やっぱり悪いことをすると罰を受けるのだなあと思いました。

5.関守

 ライターの主人公が、交通事故が連続する不思議な峠を取材するお話。

 外から伺い知れないのは誰なのかと物語を追っていくと、ドライブインの店主のお婆さんだと気づきます。しかし気づいたときにはもう遅い、という恐ろしいオチ。途中から怪しいなとは思いつつ、自分も主人公と同じぐらいのタイミングで気づいたので、ダメでしたね。

6.満願

 主人公は弁護士。学生のころに下宿させてもらっていた家の夫人「妙子」が、殺人事件を起こしてしまい、彼女の弁護を引き受けます。作品のタイトルにもなっていて、まさに6編を代表する1作。

 外からは伺いしれなかった妙子の真意に、最後の最後で気づかされるというオチ。あの骨とう品にそこまで執着する理由は少し弱かったかなと思いました。

 

 米澤穂信さんの作品はこれが一番好きです。

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【PMの基礎】書評:「プロジェクトマネジメント」実践講座

概要

 プロジェクトマネジメントの研修を行ったり、支援ツールを作ったりする会社を立ち上げた著者が、プロジェクトマネジメントの基本を解説する一冊です。

おすすめポイント

 とにかく基礎から丁寧に解説してくれているので、プロジェクトマネジメントの勉強をするにあたって、一冊目に読むのに最適だと思いました。プロジェクトの流れに沿って、計画段階からフィニッシュに至るところまでを追っていきます。

感想

 自分は事前の知識が何もなかったので、プロジェクトマネージャーはこんなにも考えることがたくさんあって、それに対するフレームワークもたくさんあるのだなと感心してしまいました。

 自分の会社ではプロジェクトを動かすときにこういう進め方はしていないはずなので、ちゃんとやる会社はこういうことをしているのだなと勉強になりました。業界によっては本書の内容が当たり前に共通言語化されているのですかね。ISOが定めたプロジェクトマネジメントの国際規格に準拠しているとのことなので、少なくともその規格では本書のようにプロジェクトマネジメントしていくことが推奨されているのでしょう。

 現場の目線で、こういうことが起きるからこういう書類があるのです、という説明をされているので、納得感があります。「実践講座」というほど実践的な内容だったかはさておき、机上の空論ではなく、実体験にも基づいているのだろうなと思いました。

 共感するところが多かったですが、「書類を作りすぎでは?」というところは気になりました。もうちょっとコンパクトにしないとPMはずっと書類作りに追われそうだなと思います。それがPMという立場であると定義されているなら、その役割をこなすべきだとは思うのですが。

 

 

 合わせて読んだプロジェクトマネジメントの本。こちらはストーリー形式になっていて、とっつきやすい内容になっていました。

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A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

【あの頃といま】書評:ロードムービー/辻村深月

ロードムービー (講談社文庫)

ロードムービー (講談社文庫)

 

概要

 短編4つと、さらに短い小話が収められた短編集です。続編というわけではないですが、過去作品である『冷たい校舎の時は止まる』とのつながりが意図的に込められた短編集です。『冷たい...』を先に読むことをおすすめします。

おすすめポイント

 『冷たい…』の登場人物たちの過去や未来のお話で、『冷たい...』で交差した彼らが、どのような人生を歩んできたのかを立体的に知ることができます。彼らの正体を知ることがひとつのミステリーの謎になっていて面白いです。ひとりひとりの物語に共感できるお話でもあります。

感想

 辻村作品はフレーバーとして過去作品の登場人物を再度登場させることが多々あります。しかし今作はフレーバーというよりは、もっと明確な意図をもって登場人物が設定されています。

 『冷たい…』は主人公格の人物が8人いて、それぞれがとても魅力的な人物でした。彼らが力を合わせて怪奇な事態に立ち向かい、仲間を助ける物語はとても面白かったです。(ホラー要素が強くて怖くもありましたが)

 『ロードムービー』に収められた短編は、『冷たい…』の登場人物の人となりを知らなければ理解できない物語ではありません。それぞれを独立した短編として読むことができます。ただ、この人は誰なのかがわかる瞬間が一番面白いと思えるように設計されている節がありました。

 僕自身、『冷たい...』を読み終えてから丸4年以上経って『ロードムービー』を読みました。なので忘れている部分が多く、途中では気づかなかったことが多いのですが、調べてみると『冷たい…』とのつながりに込められた意図に感動することがありました。

街頭

 4ページぐらいのごく短い作品です。「鷹野」は『冷たい…』での主人公格の一人「鷹野博嗣」です。名前と属性が一緒ですので。学業優秀で性格も立派なイケメンです。T大の法学部に入学したところまでは書かれていたので、「街頭」の時間軸は法学部で司法試験を目指して勉強しているところでしょう。

 もう一人の登場人物「彼女」は、「辻村深月」でしょう。とてもややこしいのですが、作家と同じ名前の人物です。メンタルが弱めな鷹野の幼馴染です。

 なんだかストーカーじみたエピソードなのですが、『冷たい…』および『ロードムービー』の中で語られる二人の関係性を知った後だと、まあこの二人の関係性なら許せるね、と思えます。

 この作品を貫くテーマがこの作中に提示されているように思います。

もう昔のことを、思い出す。あの頃のことを思うと、何でもできるとそう思う。あの頃の仲間を思い出すと、どんなことでもできる。どんなことでも、やれる気がする。

 鷹野のいう「あの頃」は、『冷たい…』で描かれたあの事件の最中と、それを解決したあとのことでしょう。良いですよね、こういう感覚。

 自分は大学時代にこういう経験をできて、本当に良かったなと思っています。気が合う仲間、尊敬できる仲間と、苦楽を共にし、困難な課題を乗り越えた経験。「あの頃はよかった」と後ろ向きに嘆くのではなく、この本にて示されているように、前向きに生きる糧にしていきたいなと思いました。

ロードムービー

 小学生の「トシ」と「ワタル」の物語です。時系列を前後させながら、二人が家出をするに至った経緯と、家出の中で体験するエピソードが綴られていきます。

 いじめにあっているさなかの鬱々としたお話。正直読んでいて気持ちの良いものではありません。ただでさえ、僕は子供が主人公のお話はあまり好きではないんです。そんなことを考えながら読み進めていくと、突然明かされる叙述トリックに仰天しました。

 ええーーーー。しまった、辻村深月さんはミステリー作家であることを完全に忘れていました。そこが逆転するなら、いろいろなことの見え方が変わってきます。そうだったのか…という感覚。やられました。

 トリックに気を取られていると、今度は登場人物の考察がおろそかになります。一番最後に明かされる「トシ」の苗字は「諏訪」。ということは、「トシ」のお父さんは『冷たい…』で生徒会長として登場した「諏訪裕二」です。彼は国会議員になりたいとか言っていたような気がするので、夢を叶えたことにもなります。

 諏訪は『冷たい…』の中で主人公のうちの一人「桐野景子」に想いを寄せています。告白したのですがフラれたという話でした。桐野は両親が医者なので自身も医者を目指しています。そして「トシ」の母親の職業は「医者」…。彼らは結婚したのですね…。一体何があったのだろう。

 そうなると、「タカノのおじさん」は「鷹野博嗣」ですね。職業は弁護士ということで、司法試験を突破して無事弁護士になったようです。「お姉ちゃん」は「辻村深月」でしょう。ドジをしてトシの母に叱られるというエピソードが載っていますが、高校時代の関係性が垣間見えます。

 つまり、『ロードムービー』は『冷たい…』の登場人物たちの未来の物語であり、幸せな「今」を描いた作品であるともいえます。一方で、トシとワタルにとっては過酷な試練であり、辛い「今」です。

 彼らにとっては辛いのですが、この作品を貫くテーマに沿っていえば、この経験もいずれ「あの頃」となり、宝物となって彼らの生きる糧になってゆくのだと思います。そのような世代間の交差が描かれた一作だと感じました。

道の先

 4編の中で僕が一番気に入った一作です。

 主人公は塾講師のアルバイトをする男子大学生。塾の生徒であるおませな中学生「千晶」に振り回される様子が描かれます。

 主人公の人生観にとても共感をしました。千晶のことを想う優しさは、彼自身の経験からくるものでした。

ここじゃない、どこか遠くへ行きたい。だけど、それがどこにもないこと。千晶が今そうであるように、俺も昔、それを知っていた。だけど大丈夫なんだ。今、どれだけおかしくても、そのうちちゃんとうまくいく。気づいた頃には、知らないうちに望んでいた”遠く”を自分が手にできたことを知る、そんな時がくる。それまでは、どれだけめちゃくちゃだって悲しくたっていいんだ。いつか、どこか正しい場所を見つけて、千晶は平気になる

 ああ、わかる...。しみじみとした共感が胸に染み渡りました。自分も小学生、中学生のころはしんどい体験をしました。いじめっ子に目をつけられ、教室の隅で暮らす日々。だけど高校・大学を経て「大丈夫」になりました。必死に生きていくうちに、いつの間にか小中学生のころに望んでいた場所へとたどり着き、楽しい毎日を送れるようになりました。いまや、憧れだった東京での一人暮らしをするまでに至っています。

 今がどれだけ苦しくても、時間が経てば自然に自分が望んでいた方向へと進んでいくことができます。長い時間はかかりますし、変化はゆっくり訪れるので最中にいるときは気づかないのですが、ふと振り返ってみるとずいぶん遠くへきたものだと思います。「道の先」で、あのころの自分を振り返る感覚。ちょうどいまの自分に染みる読書体験でした。

 『道の先』は、読んでいる途中で登場人物の正体に気づきました。種明かしは「サカキくん」という言葉。『冷たい…』の「菅原榊先生」ですね。彼に惚れていた不良少女「佐伯梨香」が主人公の留守電の相手。ということは、主人公は梨香に惚れていた「片瀬充」、東大を捜索してくれる友達が「鷹野博嗣」でしょう。

 地味で目立たない存在だった片瀬も、『冷たい…』での事件を経て、立派な人物へと成長していきます。あの経験があったから、彼は千晶に対して心のこもったアドバイスができました。その言葉によって千晶は救われ、今後の人生を力強く歩んでいけるのです。素敵なお話でした。

トウキョー語り

 田舎に住む女子高生「さくら」のクラスに、転校生がやってくるというところから始まる物語。田舎のせまい人間関係の中でおきるジメジメとしたお話です。辻村さんに実体験があるのかもしれませんが、こういった学校での女子同士の暗いいざこざを描くのが上手いですよね。いろいろな作品で出てくる気がします。

 この作品も、登場人物の種明かしがあるのは最後。携帯電話の待ち受けに設定された「としまえん」の写真。あああ、そっちが君だったのか、千晶。

 物語の中では薫子さんが目立つ存在だったので、ミスリードというか、注意をそらされた気分でした。上手いですよね。

「-それが、いつか終わりがくるものだってことも、全部知ってる。だから、平気なの」

 『道の先』にて塾講師の充から言われた言葉が、いまも千晶の中で大切にされ、心の支えとして彼女を守っているのです。なのでここまで読んで、『トウキョー語り』が『道の先』の続編であることに気づくのですね。

雪の降る道

 主人公は少年「ヒロ」と少女「みーちゃん」。ここまで読んでくればさすがに気づきます。「鷹野博嗣」と「辻村深月」ですね。彼らの幼少期の物語です。「菅原兄ちゃん」は「菅原榊」ですね。

 『冷たい…』や『ロードムービー』中で語られてきたエピソードを見ると、鷹野は体の弱い深月を気遣ってずっと守ってきたのだと思っていました。しかし、その関係性をひっくり返すのがこの『雪の降る道』という作品でした。

 鷹野は昔、体が弱かったのですね。一時的なショックによって引き起こされたものなのかもしれませんが、未来の鷹野とは比べ物にならないぐらい弱い存在として描かれています。ヒロはみーちゃんに守られて育ってきたのです。

 この幼少期の体験があるので、鷹野は深月を気遣い、守り続けるのでしょうね。幼馴染のときからこんなに深い関係が築けたまま、ゴールインまで迎えるなんて、うらやましすぎるなあと思いました。 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

 

 冷たい校舎の時は止まるの書評も残っていました。ブログをやっていてよかったなと思います。

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