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【人材管理の最先端】書評:NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く/パティ・マッコード

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

 

概要

 NETFLIXで長年人事の役員を担当されていたパティ・マッコード氏が、同社の人材管理や企業文化について解説した一冊です。

おすすめポイント

 今世界で最も伸びている会社が、どんな考え方をもって人材を管理しているかが書かれています。真似しろと言われても難しいと僕は思いました。でも、少なくとも彼我の距離を知っておくだけでもためになると思います。

感想

 企業側が社員をすぐに解雇する、解雇されたらすぐに次の就職先が見つかるというシリコンバレーの雇用の流動性の高さが前提にあるため、日本企業のサラリーマンである自分が読むと、その環境の差に愕然としてしまいます。こんなにも、前提からして違うのだと。

 雇用に対する考え方がこんなにも違うのだから、日本がシリコンバレーになるのは当然無理でしょう。例えばNETFLIXでは有給休暇制度を廃止して、社員の裁量で勝手に休んでもらうようにしたと書かれていましたが、日本では有給の取得義務が最近強化されたばかりですよね。

どちらかが間違っているというわけではないでしょう。そもそも向かっている方向が違うんですよね。シリコンバレーを目指すのは諦めようよと言いたくなる内容でした。シリコンバレーが最良というわけではないはずなので。

 

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 NETFLIXの企業文化は個人的にはとても好きだなと思いました。企業側も従業員側も、徹底的に真摯に正直にあれ、という企業文化はとてもすてきだなと思います。会社の重要な決定は従業員に知らされないとか、日系でなくても大きな企業ならよくあること。

 仕事における最大の報酬は、大きな事業の成功に貢献した達成感であるというのもとても分かります。自分の人生の大部分を費やしていることなのだから、そこで何かを成し遂げたい。もちろん給与は大事ですが、もっと大きな生きる意味という観点でも、仕事での成功は大事だと思うのです。

 自分の仕事に関連することなら、モチベーション高く勉強できる人が多いでしょう。飲み会よりも勉強会の機会を提供していると書かれていましたが、これも至極まっとうな姿勢だと思うのです。

 仕事に対する価値観は少しずつ変化していると思います。その変化に正しく適応している企業の姿だなと思いました。

 

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 会社の将来の事業内容に合っていなかったり、スキルが足りていなかったりして、スパーンと解雇されてしまうシリコンバレーの企業で働いていると、落ち着いて仕事ができるのだろうかと思ってしまいます。その点では自分はいまのぬるま湯の方が、精神衛生に良いなと思っています。

 いつでも解雇されてしまうという危機感を持っているのなら、目の前の仕事にもっと必死に取り組むでしょうし、再就職のためにもスキルを磨いておかねばと思うに違いありません。常に尻に火が付いた状態で、働き続けることになるのだと思います。

 そういうタフな働き方に耐えうる人たちだけを集めれば、きっとすごいことが成し遂げられるでしょう。ハイパフォーマーとはそういう人たちのことを言うのではないかと思います。僕には難しいかもしれない。

そんな修羅に耐えられる人は多くないのだと思います。一長一短で、正解などないのでしょう。結局は、どんな会社を作って、何を成し遂げたいのかで、人材管理の方法も変わってくる。そういう当たり前のことを再認識しました。

 

 

 

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【学習する組織作りとは】書評:チームが機能するとはどういうことか ― 「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ/エイミー・C・エドモンドソン

概要

 著者はハーバード大学の教授で、組織学習とリーダーシップの専門家。様々な組織を調査してきた経験をもとに、良いチーム作りのいろはを解説します。

おすすめポイント

 実例を交えながら説明することで、非常に説得力のある議論が展開されています。腹落ちしない部分もあるかもしれませんが、印象に残るところもあるはずです。

感想 

 原題は「TEAMING. How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy」なので、「チーミング。高度知識社会において、いかにして組織は学習し、イノベーションを起こし、競争していくか」みたいな感じですね。邦題はわかりやすく言葉を選んでつけたのでしょう。

 学習をしながら仕事をこなしていく組織が今後求められていくという主張のもと、組織をめぐる様々な要素を解説していく一冊です。僕がとくに気になったところについて重点的に書いていきます。

実行するための組織 vs 学習するための組織

 2つのタイプの組織を概念的に持ち出し、比較しながら組織のあるべき姿を論じていきます。「実行するための組織」はオールドタイプ、「学習するための組織」はニュータイプです。

 実行するための組織は、ヘンリー・フォードが発明した自動車の組み立てラインに端を発した組織形態です。とにかく効率だけを求め、人間は大きなシステムの中における歯車の1つとして機能します。実行するため「だけ」の組織と言い換えたほうがわかりやすいかなと思いました。

 一方の学習するための組織は、構成メンバーひとりひとりが、仕事を通して学習していき、よりよいクオリティを求めて常にアップデートされていく組織です。学習するための組織と言うと僕は勉強会みたいなものを思い浮かべてしまうので、学習しながら機能する組織というふうに捉えていました。

 

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 僕自身、いまちょうど学習するための組織にいるので、理解しやすい対立概念でした。会社内はおろか、業界内でも前例のないことにチャレンジしようとしていて、日々直面する新しい課題に対して、失敗を重ねながら何とか成功への道筋を見つけようともがいています。

 本書でも書かれているのですが、学習しながら仕事をしていくのはとても苦しいです。誰かが決めた正解の手順があって、それに従っていれば怒られないという仕事であればどれだけラクかと思います。ただ、それだと組織にとっても良くないですし、自分にとっても良くないのですよね。

 実行するためだけの組織では、変化に対応しにくいです。環境の変化が起きても、手順が決まっているのでその通りにしか仕事がなされず、アップデートする機会が限られてきてしまいます。

 また、自分自身にとっても、頭を使わずに仕事をすることになるので、得られるものが小さくなってしまいます。手順通りに行うことが評価軸になるので、上からの命令に従順にならねばならず、ストレスを感じてしまうでしょう。

心理的安全

 学習するための組織を作るためにはどのようにしたらよいかについてもいろいろなアイディアが述べられています。その中で、心理的安全という概念が心に残りました。

 メンバーひとりひとりが、思っていることを自由に発言できると心から感じている状態を、心理的安全がある状態と言います。間違っていることを言ったときに、怒られたり、笑われたりすると、今後発言するのが怖くなってしまいます。そうした状態は心理的安全がない状態ですね。

 自分が新入社員として最初に配属されたチームで、こんなことを言ってしまって良いのだろうかと不安になりながら会議に臨んでいたことを思い出します。何も知らない新人のくせにと思われたらどうしようと、新入社員独特の悩みだったとも思うのですが、心理的安全の大切さを身をもって知った機会です。

 心理的安全が保障されていないと、リーダーの言うことに従うイエスマンばかりになってしまいますし、メンバーが気づいた重大なリスクが見過ごされたり、その人だからこそ思いつく革新的なアイディアが共有されなかったりします。学習するための組織を作るためには心理的安全が絶対に必要というわけですね。

 

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 心理的安全の大事さをわかりやすく伝える四象限分類が図示されていました。

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 家族や友達との雑談は「快適ゾーン」ですよね。会社員の多くは「不安ゾーン」の中で仕事をしているのではないかと思います。理想は「学習ゾーン」に入ることです。

 心理的安全を保障できるかはリーダーの態度にかかっていると書かれています。リーダーが自分の知識の限界を認めるとか、自分もよく間違うことを示すとか、とにかくメンバーが発言しやすくなるような雰囲気づくりを目指していく必要があるというですね。自分がリーダーになったら、絶対に意識しなきゃなと思ったことでした。

 

 

 

チーム論とかリーダー論とか

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【ゆるやかな繋がりの中で】書評:昨夜のカレー、明日のパン/木皿泉

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)

昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫)

  • 作者:木皿 泉
  • 発売日: 2016/01/07
  • メディア: 文庫
 

概要

 若くして夫を亡くしてしまったテツコは、夫の父であるギフと暮らしています。テツコの周りの人々との交流の中で、少しずつテツコの中に変化が起きていくお話です。

オススメポイント

 独特の世界観で、今まで読んだことのない新体験でした。ふさげているように見えて、とっても真面目。最後にはじんわりと感動させられて、人生について考えさせられます。

感想

 ヘンな人しかでこない、ヘンなお話だなと読み始めたときは思いました。言葉遣い独特ですし。でも不思議とイヤではなく、むしろ心地よささえ感じます。

 主人公はテツコですが、コロコロと視点が切り替わる物語です。一人ひとりに生活があり、抱えている問題も様々です。大きく関わりのないひとなのに、逆から見ると意外と大きな存在になっていたり。

 人間関係は不思議なもので、縦横に広がるグラデーションの中で濃淡がついています。立体的でもあり、近くにあるのに俯瞰しないと見えなかったりもします。ゆるやかに繋がる人と人が影響しあって、少しずつ人生が変わっていきます。

 ただの変人だと思っていた岩井さんも、彼なりの思慮を持ち、テツコとの関係性になやむこのシーン。

一樹を入れた三人の生活が、ここにはあったんだよなあ、と岩井は思い、それはたやすくイメージできた。そして、一樹の代わりを自分がやるというのは、どう考えても違うような気がした。人間関係というのは、方程式のように、どんな数字を代入しても成り立つ、というようなものではない。この家の三角形の一辺が突然消滅してしまった。なくなったのに、まだそこにあることにして、何とか保ってきた三角形なのだろう。

 当たり前のことを言っているのですが、強引な人だと思っていた岩井さんが言うので、しみじみしてしまうんですよね。テツコとギフの関係は、安定しているようで、いびつなものなのです。踏み込みたいけど、うかつに踏み込めない危うさを見たのでしょう。

 小さいいくつかの事件を経て、テツコの気持ちは徐々に変わっていきます。変わらないことを願ったとしても、いやおうなしに変わってしまうのが人生。逆に、変えたくても一生変えられないのだと諦めていたことも、時間が経てば案外変わっていくもの。

さようなら、小さな私。一樹とずっと一緒にいたいと願った私。もう全ては終わったと絶望した私。世界から拒絶されたと思っていた私。今、気づいた。私は、そんなところに閉じ込められるものじゃないということに。今もなお、時間の中を生きつづけなければならないものであるということに。一樹は、そう思ってしまったことを許してくれるだろうか。許してくれるだろう。誰よりも私のことを心配してくれる人だったから、とテツコは思う。

 夫のずっと一緒にいたいと願っていたことのテツコにも、夫を亡くして絶望していたころのテツコにも、ちゃんとさようならを言えるようになった今のテツコ。静かに、でも、力強く、彼女は変化をして、生き続けていくのでしょう。僕にこの先どんなことが起きたとしても、テツコのようにしなやかに生きていきたいなと思いました。

 文庫版の重松清さんの解説がまたお見事なので、ぜひ読んで頂きたいです。この捉えにくい作品の正体を自然と見極め、芯をぐっと手づかみするかのごとく、美しく言語化してしまう。さすが作家さんだなと思いました。

  

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

  

 

 重松清さんの本。

  

 

【目指せ覇権】書評:ハケンアニメ!/辻村深月

ハケンアニメ! (マガジンハウス文庫)

ハケンアニメ! (マガジンハウス文庫)

 

概要

 ハケンとは覇権のこと。派遣ではありません。1クール12話のアニメ放送で、同時期の作品の中でのナンバーワンの称号。アニメ制作を仕事としている登場人物たちが、覇権を目指して奮闘する物語です。

おすすめポイント

 複数の視点から物語を描き、アニメ制作の裏側が立体的に描写されていきます。誰もが良いアニメを作りたいという想いで仕事に打ち込む姿に胸を打たれます。自分も仕事を頑張ろうという気分になれます。

感想

 単行本で出版されたのは2014年のことなので、もう6年も前の話なのですね。でも古さを感じませんでした。変化が激しい業界とはいえ、アニメを観る側の意識は大きくは変わっていないのかもしれません。

 僕はゲーム会社に勤めています。アニメとゲームは近い業界なので、共感することが多かったです。作中ではアニメ制作に関わる人はみんなアニメ愛を持っているということが繰り返し言われますが、ゲームも同じだと思っています。みんなゲームが大好きです。

 僕はクリエイターではなく、コーディネーターという立場です。直接手を動かしてゲームを作るのではなく、その前段階や、作り始めてからの外側の調整をする役目です。この作品で言うと有科や行城の仕事に近く、彼らの苦労や、彼らの仕事観により共感を覚えました。板挟みになりながらも、クリエイターに良い仕事をしてもらうために奔走し、クリエイターを守る仕事です。

 

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 有科が冒頭で言う下記の言葉。

香屋子はもう子どもではなく、わからないからこそ神秘的で魅力的だった世界の輪郭を獲得してしまった。専門用語に通じ、技術にさえ詳しくなってしまった以上、それは仕事だから当然だ。誰かのファンになったとしても、それは仕事相手への「尊敬」だという側面が強い。 

 僕がゲーム会社に入ったときに感じたことを、とても上手に言語化していてびっくりしました。これからはファンではなくて、届ける側の一員として働いていかねばならないのだと心に念じた新入社員の頃。自分が大好きなゲームを作った人に出会うこともあるのですが、ファンではなく、仕事人としての尊敬を持って、彼らのような仕事がしたいと思うようになりました。

 もう1つ印象に残ったのが下記の王子監督の言葉。

「どうして、いじめなんて言葉で括らなきゃわからんないかなぁ。わかりやすくしたいなら、そういう理解でもいいけど、ちょっと繊細さに欠けすぎなんじゃない?そんなとこまで行かないような浮き方や疎外感ってのが、この世には確実にあるんだよ。で、そういう現実に溺れそうになった時、アニメは確かに人の日常を救えるんだと思う」

 いじめとまではいかなくても、なんとなく環境になじめないということは往々にしてあると思うのです。悩んでいる人にとって、アニメやゲームは救いになれる。誰かの救いになればよいなと思って、今日も仕事を頑張ろうと思えます。

 本気で頑張っている人たちの姿勢に共感できるから、いろいろな場面でじーんと目頭が熱くなりました。

 

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 小説としては、視点が切り替わるごとに少しだけ時間を動かしていくという面白い構成をとっていました。別の視点から「その後」を描くというのは簡単なように見えて難しいことだと思います。肩に力をいれずにさらっとやっているのが本当にすごいです。

 王子監督の「リデルライト」と斎藤監督の「サバク」の、どちらが覇権を取るのだろうと思って読み進めていくと、ぽっと出の第三者が覇権を取ってしまう。辻村さんらしい決着の付け方だなと思いました。そのうえで、「覇権」とは数字ではないということを語れるのが、ちゃんとアニメファンのことをわかっていて素晴らしかったです。

 第3部で、今まで出てきた登場人物が1つのお祭りに向けて収束していくシーンは、とっても胸が熱くなりました。アニメを作るというのは傍から見ると地味な絵になってしまうと思うのですが、こういう盛り上げポイントがあると、面白い物語になりますね。

 

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 この作品も辻村ワールドの一部。「スロウハイツ」で登場したチヨダコーキが脚本を書いてみるという挑戦をしていました。飄々とやってのけるのが彼らしいですね。物語の最後で王子監督が行城プロデューサーとデビュー作「V. T. R.」を実写化すると言っていたのも胸熱でした。 

 

  

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

【新時代の企業戦略】書評:D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略/佐々木康裕

概要

 今までとは全く違うメーカーが現れている、ということを解説した1冊です。モノだけを作るのではなく、プロダクトにストーリーを作り、デジタルを駆使して販売戦略を組み立てる企業。Direct to Consumerを略してD2Cと呼ばれています。

感想

 自分のおさらいも兼ねて、本書から表を2つ引用します。

 

D2C企業と伝統的な企業との違い

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D2C企業と伝統的な企業の世界観の比較

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 正直に言うと、わかるような、わからないようなという感じなんですよね。これは著者が触れていますが、アメリカと日本の違いに起因しているのでしょう。

 アメリカではリーマンショックで世代が大きく分断されました。景気減速を理由に雇用に大きな影響が出たので、ミレニアル世代以下はお金がなく、今までとは違う倫理観を持っているとのことです。一方バブル崩壊を経験した日本では、リーマンショックでそこまで大きく雇用を絞らなかったので、目に見える形で世代の分断が起きていません。

 アメリカで新たに現れたミレニアル世代以下の人たちに刺さるのがD2Cのやり方です。日本ではまだまだ浸透していないのが実情だと思います。上の表を見てもイマイチピンときません。

 D2Cは価格が安価だと言いますが、日本は長らくデフレが続いているので、良いものが安く買える環境がずっと続いています。価格が優位性につながらないのでしょうね。

 

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 アメリカで流行ったものはやがて日本にもやってきます。D2C企業がアメリカでこれからも繁栄を続ければ、いずれ日本にもそのトレンドがやってくるでしょう。

 デジタルを主戦場にしてデータドリブンで経営を進めていくというやり方は、すでに日本でも取り入れられています。プロダクトそのものではなくライフスタイルを売るというやり方も、無印良品みたいな感じでどんどん浸透してくるのではないでしょうか。

 つまり、部分的に取り入れていくということになると思うんですよね。例えば、プロダクトにストーリーを付与するとはどういうことかを示した下記は参考になる考え方だと思うのです。

「プロダクトがコンテンツ化する」とは、「プロダクトがストーリーをまとう」ということだ。ストーリーをまとったプロダクトは、意味レベルの価値を持つ。そして、意味レベルの価値を持ったプロダクトは、機能レベルでの比較などされない。他のプロダクトとまったく違う価値を持ち、マーケットの中で、ユニークで絶対的なポジションを獲得することができる。

 アメリカとは違う形で、日本の企業にも徐々に変化が出てくるのだろうと思います。アメリカの事例を学んでおくことで、その変化を先取りすることができるかもしれません。そういう意味で、頭の片隅に置いておきたい内容だなと思いました。

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

【異世界医療が紡ぐ命の物語】書評:鹿の王/上橋 菜穂子

鹿の王 1 (角川文庫)

鹿の王 1 (角川文庫)

 

概要

 2015年本屋大賞第1位、そして第4回日本医療小説大賞を受賞した作品です。ファンタジー世界を舞台にした医療小説という異色の設定なのですが、丁寧に語られる物語にとっつきにくさは全くありません。

おすすめポイント

 恐ろしい感染症と対峙する人々の思惑を描く中で、「命」という究極のテーマに迫っていく壮大な作品です。老いや病が原因となり人はいつか死んでしまうという絶対的な事実を前にしても、勇敢に進んでいく人々に勇気づけられます。

感想(ここからネタバレします)

国家と身体

 様々な要素が組み合わされ、大長編となっている作品です。どこから感想を書いていこうかととっかかりを探していたのですが、あとがきで上橋さん自身が書いていた、この作品が書かれることになったきっかけから追っていくのが良さそうです。

『破壊する創造者』という、生物進化論の本です。人の身体を侵す敵であるウイルスが、時として、身体を変化させる役割を担う共生体としてふるまうことがあるのではないかという発想から、様々な事象を検証していく内容で、(略)

 人間の体の中には様々な菌類が住み着き、ときにはウイルスに侵入され、それを追い払う白血球などが生成されたりしています。私たちの身体は単一の生命体として存在しているようでミクロの世界ではベクトルの異なる生命活動がぶつかり合って、絶妙な均衡の上に成り立っています。

身体も国も、ひとかたまりの何かであるような気がするが、実はそうではないのだろう。雑多な小さな命が寄り集まり、そそれぞれの命を生きながら、いつしか渾然一体となって、ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。
そういう大きなー多分、この世のはじまりのときに神々がその指で紡ぎ出したー理の中に、我々は生まれ、そして、消えていく。
小さな泡のような、一瞬の生。

 異なる人種の人間が住み着き、主義や思想もバラバラで、各々がそれぞれの生活を守るために寄り集まっている国家と、構造は同じなのではないか。そういうミクロとマクロの共通点を下敷きにして、この本の大枠が形作られているのだと私は解釈しました。

 そして、そんなバラバラな個である人間の代表として、全く共通点のない2人の主人公が、1つの病を通じて運命的な邂逅を果たします。彼らも私たちと全く同じように、「小さな泡のような、一瞬の生」を懸命に生きようとします。その姿勢に心を打たれるものがありました。

2人の主人公

 上記の思想に沿って形作られた大枠の中で、2人の魅力的な主人公が、それぞれの使命を全うしようと命を賭して戦います。2人は真逆で、全く似ていません。物語の中で触れ合う時間も長くはありません。しかし、まぎれもなくこの2人だけが描ける、命の物語が展開されていきます。

ヴァン

 最愛の妻と子を亡くした絶望の中で、命を捨てて戦っていた戦士。病で生き残ってしまった者。

 彼はすべてを諦めた人です。でも、再び見つけてしまった人でもあります。愛する人と、かけがえのない命の繋がりをもう一度手に入れてしまいました。それゆえに彼は悩むのですが、立派に前に進んでいく心意気が本当に素敵な人だなと思いました。

(病に命を奪われることを、あしらめてよいのは)
あきらめて受け入れる他に、為すすべのない者だけだ。
他者の命が奪われることを見過ごしてよいのは、たすけるすべを持たぬ者だけだ。
閉じた瞼の闇に、小さな鹿が跳ねるのが見えた気がした。渾身の力をこめて跳ね上がるたびに、命が弾けて光っていた。
(・・・踊る鹿よ、輝け)
圧倒的な闇に挑み、跳ね踊る小さな鹿よ、輝け。

 タイトルにもなっている「鹿の王」という言葉の意味には驚きました。犬を操る「犬の王」なる者が現れたので、「鹿の王」は鹿を操る人のことなのかなと思って読み進めていたのですが、答えは真逆。群れのために、命を投げ出す者。傍からみると命知らずの大バカ者。

 ヴァンのように、本当に命の大切さを知っていて、それでいて諦めを心の内に秘めている者。そんな存在だけが「鹿の王」になれる、なってしまう。それはある意味悲しいことです。しかし完全な悲劇ではなく、敬意を払われるべき、素晴らしき犠牲としてヴァンは「鹿の王」になります。この塩梅、すべてを読まないとなかなか伝えられないなと思いました。

ホッサル

 医術の探究者。高貴なる若者。傲慢の中に光る優しさ。医術のすべてを解き明かそうと理想に燃える若者。それでいて、たくさんの人の生死を見つめた結果、やはりどこかに諦めを悟った人でもあります。

病が神の手であり、死が在ることの意味を見せてくれているとしても、なお、そんな冷たい世界の中で、ちっぽけな命として生きていかねばならないのが人なのだ。
(その哀しみをーどうしようもない哀しみを背負って、それでも、もがいている者の手助けをするために、おれは医術師になったのだ)
滔々と流れる大河の中で、浮き沈みしながら、ようやく生きている小さな命をたすけるために、医術師になったのだ。

 助けられない命があることを彼は知っています。それでも、もがいている人を救いたいと医術の道を究めようとするその姿勢は、命というものに対してとても真摯です。

 清心教という、医術をある種の呪術と解釈し、非科学的な治療を行っている人たちとホッサルは対立をしています。ただ、病から回復する者とそうでない者の差を見つめれば見つめるほど、ホッサルの思想の中にも清心教的な考え方が含まれていることに気づきます。「病は神の手」であり、100%の制御はできないと知りながら、懸命に生きる人をホッサルは治療するのです。

ラスト

 森の中に消えてしまったヴァンを、みんなで追いかけようと決意し、物語は途切れます。見つけるところまで見せてほしいという寂しさはあるのですが、ユナとサエがいれば絶対にヴァンを見つけてくれるという安心感もあります。民族やしがらみを越えた、愛ゆえの行為に、胸が熱くなります。

 ホッサルはこの物語の中で起きたことを振り返り、以下のように思いを吐き出します。

(生き物はみな、病の種を身に潜ませて生きている)
生の中には、必ず死が潜んでいる。
(それでも、そうして生きるしかない。かぼそい命の糸を切られてしまわぬように、懸命に糸をつなぎ直しながら)
生まれて、消えるまでの間を、哀しみと喜びで満たしながら。
ときに、他者に手をさしのべ、そして、また、自分も他者の温かい手で救われて、命の糸を紡いでいくのだ。

 なんと冷静で、なんと温かい生命観でしょうか。「鹿の王」という大長編が、徹底して命の有り方について書かれているからこそ、この言葉はとても染みます。人間は脆いものです。病には勝てません。必ず老いて死ぬその定めのなかで、他者の命の糸を繋ぎ、自分の糸を繋ぎなおしてもらいながら、一緒に生きていくのです。永遠でないこの一瞬の命を、いかにして生きてゆけばよいか、ヒントをもらった気分になりました。

著者あとがき

 あとがきの中で上橋さんは、この作品の執筆中にご自身の母親を看取ったことを書かれていました。そこを読んでいるときになぜか涙が止まらなくなってしまいました。現実の体験として、命に真正面からぶつかったからこそ、この作品中の言葉には本当に説得力がありました。

 1つの作品を通して、壮大な生命の営みの深淵に、ほんの少しだけ触れたような気がします。私のつたない言葉で書き記すことは難しい、繊細な死生観が表現された作品でした。ぜひ読んで頂きたいです。Aランクに入れておきます。

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

上橋さんが書いた「獣の奏者」も傑作でした。

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【残業を減らせ】書評:人間使い捨て国家/明石順平

 

人間使い捨て国家 (角川新書)

人間使い捨て国家 (角川新書)

 

概要

 著者はブラック企業訴訟に数多く携わってきた弁護士。人間を使い捨てるように働かせる日本企業の問題点を糾弾し、解決策を提言する一冊です。

おすすめポイント

 僕自身の肌感覚として、本書の主張は真っ当だなと感じました。労働者にきちんと対価を払い、稼いだお金を消費に回してもらわないと日本全体が沈没していってしまうのではないかと思います。

感想

 「人間使い捨て国家」。なかなかインパクトのあるタイトルだと思いませんか。センセーショナルなタイトルを付けて、なかば炎上気味に売り上げを取りに来ている本なのかなと読む前は思っていました。

 著者は労働問題をメインで扱う弁護士さん。彼の主張を端的にまとめたタイトルが「人間使い捨て国家」であり、最後まで読むと良いタイトルだなと思うようになりました。日本の法律が、人間の使い捨てを助長するものになっている現状を鋭く指摘した一冊です。

現状

 経団連と密接に結びついた自民党政治、そしてアベノミクスの負の側面が、最近ようやく顕在化してきているように思います。自分の仕事を通して日本の消費者の動向を見たときに、明らかに悪くなってきているのです。

 日本人にはカネがありません。しかも、カネだけでなく時間もないようなのです。長時間低賃金労働で、消費がどんどん縮こまっています。もともと、自民党の政治には反対派ではなかったのですが、時間をかけてゆっくりと、日本の経済が悪い方向へと進んでしまったのかもしれないと思うようになりました。

 企業や経営者を第一に考えた政策を実行していると、消費者の生活が苦しくなり、結局は企業の業績が悪くなってきます。それが目に見える形で表れてくるまでに、時間がかかったということなのでしょう。

解決策

 本書で多くの紙面が割かれているのが、残業代の支払いをあの手この手で回避しようとする企業の実態であり、それを防げていない法体系の話です。法律を厳格化して、ちゃんと残業代を支払わないといけないようにすれば、残業代を抑えるために残業そのものが抑制されてくるだろうというのが筆者の主張です。

 いまはそれなりに景気が良いので、残業そのものは減らないのではというのが僕の肌感覚ではありますが、残業代が増えればその分だけ消費に回ることになるでしょう。最近、有給消化が厳しく監督されるようになったので、僕の会社でも有給に関する制度が変わりました。正しく法律を変えれば、その効果はちゃんと出てくると思います。

 そのほかにもいろいろな提言がなされていますが、メインの主張はとにかく残業をなんとかしろというふうに僕は受け取りました。長時間低賃金労働になっている一番の原因は残業代が支払われないことだと思います。企業の業績に大きく影響することなく、少しずつ良い方向に変わっていくと良いですね。

 

 

労働に関する本。

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