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【年功序列の負の側面】書評:若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来/城繁幸

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

 

概要

 「なぜ新卒入社の若者がすぐにやめてしまうのか」という問いに対して、年功序列システムが時代にそぐわないからだと主張する一冊です。

おすすめポイント

 様々な角度から年功序列制度の批判が展開されます。今や逆に年功序列の良いところを見直すべきだとの声さえ聞こえてきますが、まずはこの時期に問題提起されたことが大きかったのでしょう。時代を的確にとらえた鋭さが光ります。 

感想

 最初から最後まで年功序列制度の弊害を指摘し続けるわかりやすい一冊です。年功序列には様々な解釈の仕方がありますが、この本では若者の現在の労働力と将来出世させてあげるという約束を交換する制度だとされています。50代になったときに管理職ポストとそれに見合うだけの給料を払うという手形を切ることで、若者は下積み時代を耐えます。

途切れる若者のキャリアパス

 景気が上向きで、企業の成長が続いていた時代は年功序列制度は大変うまく機能していました。しかし現在の不況下にあって、若者を全員管理職にするだけのポストはありません。若者が思い描いていた会社でのレールが、実は途切れてしまっていると著者は言います。

また、その崩壊プロセスを見れば、年功序列制度が持つ本性がうっすら見えてくる。それは、けっして万人に優しい制度ではない。レールの上に乗ることのできた人間にのみ優しく、乗れなかった人間を徹底的に踏み台にして走り続けるシステムなのだ。 

 もちろんレールの上に乗れる人もいます。しかし多くは同期入社のうち全員が課長になれるわけではないというように、レールから落ちてしまう人がたくさんいるのが現実です。

 自分がレールに乗れる人間なのか、乗れない人間なのか。それが分かるのは30代なのだと著者は言います。

企業のなかでレールに乗って順調に進めるか、それとも完全にキャリアパスが止まってしまうのか。それが自分ではっきりとわかる年齢は、おおかたの企業において三〇代だ。これが、企業内で三〇代が壊れていく最大の理由だろう。プレッシャーというよりは、閉塞感というほうが正しい。 

 この閉塞感を感じ取った若者が、若くして転職していく若者だというのです。確かに、この先給料も上がらず職務内容も変わらずの状態がずっと続くとなれば、やめたくなるのが当然だと思います。

 企業はどうすればいいのか、という点はこの本の主題ではないのであまり詳しくは触れられていませんでした。しかし随所に染み出ているのは、昭和的価値観の打破です。もう、昭和は終わったということを認識し、年功序列の悪いところを直視する必要があうのでしょう。そして、組織の風土に適したやり方で、成果主義を取り入れていくしかないのではないでしょうか。それにプラスして、成果以外のところで若者のモチベーションを保つ方法を取り入れるべきでしょう。

閉塞感を打ち破れ

 一方で、若者はどうすべきなのか。

いずれにせよ、まず若者にはやるべきことが一つある。それは、"心の鎖"を解き放つことだ。われわれは年功序列システムのなかで、いつの間にか心にまで枠をはめられてしまっている。その枠とは、「待っていれば誰かが必ず正答を与えてくれる」という固定観念だ。それを捨てて、自分にとっての正答は何か、一度問い直さなくてはならない。いわば、失われた動機を取り戻すのだ。「なんのために働くのか」こんなことを書くと哲学的な響きで敬遠されそうではあるが、実はこれは、自分のレールについて考えるとき、絶対に避けては通れないプロセスだ。自分がいまのレールから降りるべきかどうか。そして降りると決めたら、次にどこに向かうべきか。これらの問題に直面すると、人は嫌でも「何を求めるのか」というテーマに直面せざるをえないからだ。 

 著者は年功序列制度は学校教育にまでさかのぼることができると主張しています。幼いころから叩きこまれた教育は、唯一絶対の正解を誰かが与えてくれるという幻想を植え付けます。その鎖から解き放たれなければなりません。

 何かを選ぶときは、基準を設定する必要があります。転職するか否かの議論をするとき、その基準は常に自分の内部に見出すべきである。これが著者の主張でした。

彼ら"転職後悔組"に共通するのは、彼らが転職によって期待したものが、あくまでも「組織から与えられる役割」である点だ。言葉を換えるなら、「もっとマシな義務を与えてくれ」ということになる。同期の根源が内部ではなく外部に存在するという点で、彼らは狼たちと決定的に異なるのだ。転職が独立か。それともまったく別の生きがいを求めるか。いずれにせよ、いま自分が感じている閉塞感の原因を突き詰めることが必須だろう。それが、自らの動機を回復する第一歩なのだ。 

 変革を社会や政府にだけ頼っていてはいけないと思います。自らの閉塞感は自らが作り出している可能性が高いのです。まずはそこを突き詰めなければならないのでしょう。覚えておきたいことです。

 さて、社会はどうなっていくべきかについても言及されていました。それは転職市場の拡大です。この本が書かれたことよりもさらに転職市場は拡大しているに違いありません。とくにITの分野では非常に流動性が高くなっていると聞きます。これは多くの人にとって悪いことではないような気がします。期待したいです。 

 

 

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