【怒涛の女刑事エンターテイメント】書評:ストロベリーナイト/誉田哲也
概要
誉田哲也さんの「姫川玲子シリーズ」第一弾。警視庁捜査一課に勤める姫川と彼女の同僚たちが凶悪事件に挑みます。溜池のそばで見つかった惨殺死体は、狂気の連続殺人の被害者でした。操作上に浮かんでくる「ストロベリーナイト」とは一体何か。
おすすめポイント
誉田さんらしい容赦のない残酷表現、散らした謎が徐々に明らかになるスリリングな展開、そして個性的で魅力的な刑事の面々の活躍は、400ページ超の長さを感じさせない極上のエンターテイメントでした。
感想
普段小説を読むとき、主人公の生き様から何らかの哲学が読み取れたらいいなと思って読んでいるのですが、この作品はそういうのは抜きにして純粋なるエンターテイメントとして読んでしまいました。とにかく読者を興奮させることしか考えてないんじゃいの?ってぐらいの盛り上げ方に、思わず乗せられてしまいました。
例えば、姫川玲子が警官を志すことを決めたシーン。レイプされた心の傷から立ち直るきっかけをくれた婦警が検察官に馬鹿にされ、証言台で彼女は怒りを爆発させます。姫川の怒りは、同僚の警察官たちの心を打ちました。
彼らは全員、警察官だった。被害者家族以外の席は警察官でびっしりと埋まっており、今その全員が立ち上がり、玲子に、敬礼をしていた。ある者は歯を食いしばり、ある者は涙を堪え、またある者は怒りに肩を震わせ、だが全員が、玲子に敬礼しているのだ。
同じ警察官だという見えない仲間意識で結束する彼ら。文字を読んだだけで、僕の脳裏には傍聴席を埋め尽くす人影が目に浮かびます。鳥肌が立ちました。感情に直接訴えかけてくるのです。ぐわっと、熱くなってしまいます。
読むのがつらくなるような残酷な描写が容赦なく描かれているのですが、それも感情に訴えかけてきます。途中で出てくる殺人ショーの描写は省くこともできるシーンなのに、誉田哲也さんは手加減しません。トータルとしてアップダウンが非常に激しい怒涛の展開です。小説は「小難しいことをごちゃごちゃ書く」のではなくて「読者を揺さぶってなんぼ」。そう考えて書かれたかのようです。
結末がべたな展開だとか、犯人がのたまう「リアルに死を感じられる」ってのが中二病臭いとか、そういう批判はもういいのです。いかに感情が揺さぶられるか。エンターテイメントとして楽しむか。そういうところに魅力を感じる一冊でした。
だから、最後の最後にライバル刑事が吐き捨てる臭いセリフも、全部がエンターテイメントなのです。
「お前なぁ、下らねえホシの戯言なんぞに、一々惑わされんじゃねえぞ。上ばっかり見てたから下が見たくなった?下しか見えないから上が見たい?馬鹿いうなって。そんななぁ、上だの下だの右だの左だの、余計なとこばっか見てっから、肝心なものが見えなくなっちまうんだよ」 勝俣は振り返り、力強い目で玲子を捉えた。「いいか。人間なんてのはな、真っ直ぐ前だけ向いて生きていきゃいいんだよ」
いいですねえ。これぞ、王道といった感じ。エンターテイメントのための名言ではありませんか。まっすぐすぎて、これはこれで嫌いじゃない。熱に浮かされたように、批判のない純粋な目で、楽しんでください。Bランクに入れておきます。
おばちゃん女刑事が主人公の物語。
こちらの 主人公はなんとなく玲子と似ているところがありました。