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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【世界か愛か】塩の街/有川浩

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

 

概要

 「海の底」「空の中」と並ぶ、いわゆる自衛隊三部作の1つです。そして有川浩さんのデビュー作。体が徐々に塩に侵されていく奇病に襲われる世界を、一組のカップルが救うお話です。

おすすめポイント

 真っ直ぐな愛が、世界の崩壊を防ぎます。ありがちなストーリーかもしれないですが、最後までばっちり面白いです。

感想

 ようやく、有川浩さんのデビュー作を読むことができました。1作目なのに(?)、10歳差の年の差恋愛を描いていたのですね。ちょっと驚きでした。

 「本編」と「その後」が収録されています。本編には心に刺さるエピソードや、ハッとさせられる言葉がたくさんありました。

『わがままかもしれないけど、身勝手かもしれないけど―俺たちが恋人同士になるために世界はこんな異変を起こしたんじゃないかって、そう思うんだよ 』

 こんな世界になってしまったから、気づけた本当の気持ち、というやつですね。わかっているのですが、人は素直には生きられない。

『どうせ死ぬんだ。それを旗印に。そもそも世界が裏切ったのだから、人々が善くあることを守る必要などあるものか。善き人を定めていたのもどうせ旧い世界のルールなのに。 』

『こんな自分に気付きたくなかった。世界に備えられたルールは自分自身の汚さを覆ってくれていたのだ。それさえ守れば自分は正しく善良だと思っていられるから。』

 ルールとは何か、善とは何かを考えさせられる言葉です。崩れない前提があるから、ルールがあり、正しい行いが規定されているのですね。

『自分の関わった人さえ不幸にならなければそれでいい。自分の見る部分さえ綺麗ならそれで。知らないところにどれほど汚く、醜く、残酷な部分があったとしても、それを直視することがなければ知らなかったことにして穏やかでいられる。世界が美しいなんて嘘を信じたままで。 』

 自分はどこまでの範囲を気にしながら生きているのでしょうか。よくわからないですね。自分だけよければいいわけではないですし。

 「世界か愛、1つ選ぶとしたらどちらか」というのは珍しいテーマではないですが、けっこう突き詰められているなぁと思いました。それも面白かったです。

『きっと、最後の瞬間まで恋をしていた人たちはいっぱいいる。そのうちの一つの恋が、世界を救ったのだ。世界を救うなんて大上段な使命感ではなく。ただ好きな人を守りたい、という願いがきっと一番強いのだ。きっと世界を守りたいなんて思って世界を守る人はいない。 』

 好きな人を救うついでに世界が救われるなんて、美味しい話です。

 伊坂幸太郎さんの「終末のフール」を思い出しました。あの作品では、小惑星が地球に衝突することが確定した世界を描いています。衝突が確定した直後は、世界は荒れに荒れたのですが、時間とともに収まってきたという設定がされています。一方でこの「塩の街」では、世界の崩壊のまっただ中。人々は奪い合い、殺しあっている。なんだか奇妙なつながりを見ました。


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