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【科学かオカルトか?】書評:予知夢/東野圭吾

予知夢 (文春文庫)

予知夢 (文春文庫)

 

概要

 「探偵ガリレオ」に続く、ガリレオシリーズの2巻目です。5つの短編が収められています。

おすすめポイント

 タイトルは予知夢ということで、前作「探偵ガリレオ」よりもオカルトめいた話が多かったです。非科学的な出来事をネタにした草薙刑事とガリレオ先生のやりあいが面白いです。

感想

 このシリーズのワトソン役、草薙刑事は世の中には科学で説明がつかないこともあると信じている節があります。一方で物理学者ガリレオ先生こと湯川教授はそんなことは微塵にも思っていない。オカルトというものを巡ってふたりが交わす会話が面白かったです。

『「俺がこの手の事件に興味を持つようになったのは、おまえの影響を受けたからなんだ。オカルトめいたことを科学的に解き明かそうとすると、意外な真理が見えてくる。」「君から科学的とか真理とかいう言葉を聞くと、二十一世紀に期待を持てそうな気がするから不思議だ」』

 ガリレオ先生は草薙刑事がよっぽどの科学音痴だと思っているようです。

『「古い新しいの問題じゃない。統計的なことをいっているんだ」 「統計的?」 「早く結婚して後悔している人間と、もっと早く結婚すればよかったと後悔している人間では、どちらが多いかという問題だ」 草薙は若き物理学者の顔をしげしげと眺めた。そういう考え方で生きていて人生が楽しいかと訊きたい気分だったが、黙っていた。』

  こちらの会話は、学生結婚すべきかどうか相談を受けた湯川が学生に返した答えに関して交わされたもの。統計的なデータに基づいて返答をしてあげたのですね。

 一方で、事件やトリックの方はというと、事件の一面だけを見るのではなく、別の側面から見ると思わぬ事実が見えてくる、という流れの事件がなんとなく多かった気がします。オカルトや心霊現象は人の心理が創りだしたもの。だから、ある見方をすると超常現象が起きたように見えても、実際はそうではない。例えば予知夢に関して湯川が述べた次のセリフ。

『夢を見るのはレム睡眠の間だ。このレム睡眠は一晩に五回ほど訪れる。その間に、かなり多くの夢を見ている。その中にさらにいくつもの話題が含まれている。そして人は夜になると必ず眠る。すると、ある人がたとえば一ヶ月の間に夢によって獲得するエピソードは、膨大な数にのぼることになる。そうなれば、その中には現実の出来事と似通ったものがあっても不思議ではない。』

 客観的なデータを用いて、合理的なロジックを組み立てています。このようにして、草薙刑事が持ち込む摩訶不思議な事件を、湯川が解いていきます。

 

夢想る

 予知夢に出てきた女性を思い続け、家に忍び込んだ男。意外な真実はどんでん返しではありますが、なんとなく予想できるものでした。この短編での湯川の推理は、あまり物理が関係ないものでした。序盤で出てきた綱引きの実験も伏線ではなかったです。

 

霊視る

 殺害された女性が、事件と同時刻に別の場所で見かけられる。些細な疑問点から事件の裏を疑い、調査が始まります。決め手はやはり科学的に導き出されるという、ガリレオシリーズらしい幕引きでした。事件自体も複雑で見当もつきませんでした。

 

騒霊ぐ

 失踪した男を追っているうちに、古い日本家屋にたどり着いた草薙。そこにポルターガイストがやってきます。たまたまドラマ版で見たことのある作品でした。「今回ばかりは霊の力が作用した」と言う草薙刑事。確かに、こんな偶然はなかなかないでしょうね。

 

絞殺る

 工場経営者が首を絞められて殺害された事件。一見すると何の変哲もない事件。しかし微かに残る不審な点を繋ぎ合わせると、思いもよらなかった方向性が見えてきます。ガリレオ先生お得意の、実験でトリックを証明するタイプの事件でした。このトリックは一体どういう仕組なのか、正直イメージがつかなかったです。

 

予知る

 マンションの1室で女性が自殺。その自殺の3日前に、女性が自殺する様子を見ていたと語る女の子。なぜこの女の子は自殺を予知することができたのか。真相は狂言自殺の失敗に見せかけた殺人事件という複雑なものでした。そしてトリックはすごく科学的でマニアック。まさにこの短編集の「らしさ」が詰まった作品が最後に持って来られていました。

 

 

関連作品

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