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【女一人激動の人生】ラブレス/桜木 紫乃

ラブレス (新潮文庫)

ラブレス (新潮文庫)

 

 概要

 作者の桜木紫乃さんは2013年に『ホテルローヤル』という作品で直木賞をとりました。この作品は作者の代表作ということで売り出されていました。波瀾万丈な女性の一生を描いた作品です。

おすすめポイント

 見方によっては最初から最後まで救われることのない、鬱々とした話だと捉えることもできるかと思います。でも僕はこういう作品の方が心に残りますし、いろいろと考えるきっかけになります。

感想

 タイトルからは恋愛がテーマなのかなと想像しましたが、恋愛がすべてというお話ではなかった気がします。激動の人生を歩んだ主人公の生き様とでもいいましょうか。

 常に問われていたのは「幸せとは」ということなんじゃないかなと思いました。終章に入る手前、百合江は「わたしは自分のこと、世界一幸せな人間だと思っています。」と言っています。強がりではなく、心からそう言っているように聞こえるから不思議ですね。幸か不幸かを判断する材料とはなんなのかを考えさせられます。

 百合江と里美との対比から、将来にわたる安定を求めるべきなのかどうかということも考えさせられます。過去と現在を織り交ぜることによって、その対比が強く意識させられます。

 さらには従姉妹である小夜子と理恵の対比。一番最初に登場して以来、しばらく物語には登場してきませんでしたが、最初にこの二人が存在を示したことが、あとから生きてくるのですね。この二人がいかにして生まれ、いかにして育っていくのかが、けっこう気になるところとなってくるわけです。そしてどのような性格になっていくかも。うまいなぁと思いました。

 そのほか、血のつながり、家族の関係、家族の在り方。一芸は身を助く、などなど。百合江の人生を通して、考えさせられるものはたくさんありました。綾子のことに関しても、どうするのがみんなにとって幸せだったのか。深いですねぇ。

 タイトルの意味がわからないのが心残りです。なぜラブレスなのでしょうか。百合江には愛する人がいたわけですし・・。