読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ネットワーク的読書 理系大学院生がおすすめの本を紹介します

本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【罪と罰と愛と】僕のメジャースプーン/辻村深月

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

 

概要

 主人公は不思議な力を持つ小学生。名前は明かされないので「僕」で通します。「僕」の小学校で悲惨な事件が起こります。友達のために、その犯人と戦う勇気の物語です。

おすすめポイント

 不安と恐怖に襲われながらも「僕」は決して逃げようとしません。まっすぐな思いに何度も涙が出そうになりました。そして人間の本質を鋭くえぐる言葉の数々。ハッとすることの連続でした。

感想

 話の主軸となるのは、「罰」だと思いました。犯人に罰を与える力を持った小学生の「僕」は、どのような罰を与えるべきかを必死に考えます。大人でも考えるのを諦めてしまいそうな哲学的な問題に真っ向から立ち向かっていく姿は本当にあっぱれです。

『わかりあえない者同士は、無理に一緒にいる必要はない。関わらず、住み分ける以外に道はありません。正しいとか正しくないというのは、それを話すのが人間同士である以上、簡単に変化していくんです。これが何という正解はない。けれど、そんな中でどうすることが自分の心に一番恥じないのか。何を一番いいと信じるのか。それだけはきちんと胸に置いておく必要があります。』

 これは「僕」に協力してくれる秋山先生という大学教授の言葉。こんなことを小学生のころの自分が考えられるでしょうか。たぶん無理だったでしょう。だから、今の自分だったらどうするのかを考えながら読みましたが、何が正しいのかさっぱりです。難しすぎます。

 この先生は容赦がありません。さらに畳み掛けるように、「僕」に難しい話をします。

『自分にとって、大事な存在ができた。そう思い、その相手を慈しむ気持ちが自分自身の命より勝った時点で、彼は期限を待たずにその場で死を選ばなければなりません。それができるなら、彼の罪を許してもいい。彼のようなどうしようもない人間には、自分の命よりも大事なものを作ってもらいます 』

『自分の命を他人のために投げ出す。そんなことができる人間なんていないんですよ。自分のせいで誰か他人が死ぬ、その良心の呵責に耐えられず死を選ぶという場合ならあるでしょう。が、それだってそう易々とできることではないし、ましてそれが彼のような個性の持ち主なら尚更です。』

 話は進み、物語はクライマックス。苦しみながら「僕」が出した答え。そしてなぜその答えを出したのか、最後に明かされる真実。驚きの連続でした。「僕」が決めた覚悟は、あまりにも強く、あまりにも悲しい物でした。彼の気持ちがビシビシと伝わってくるので、読んでいて胸が痛かったです。

 そしてそして、「僕」のその告白を温かく包み込む秋山先生は、さらにびっくりするぐらい懐が深かったのです。「僕」の後悔をすべて洗い流すような優しくて深い教えです。感動しました。

『馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです』

『自分のエゴで、自分の都合で、時に結びつき、時に離れ、互いを必要とする気持ちに名前を与えてごまかしながら、僕たち人間は発展してきた。ずっとそれが繰り返されてきた。今、小さなあなたが一人きりで責任を感じて泣くことは何もないんですよ。 ーふみちゃんが悲しいことが、苦しいことが、本当に嫌だったんでしょう?それを愛と呼んで何がいけないんですか。』

 この文章、見返すだけで目頭がジーンとしてきます。「罪と罰」の話から、最後は「愛とは」というテーマまで難なくつながっていきます。これが「愛」という言葉を一分の隙なく捉えた言葉であり、「愛」の定義かもしれない。そんな風に感じました。

 久しぶりにおすすめ本Bにランクインです。