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【医療と死を見つめ直す】書評:大往生したけりゃ医療とかかわるな/中村仁一

大往生したけりゃ医療とかかわるな (幻冬舎新書)

大往生したけりゃ医療とかかわるな (幻冬舎新書)

 

概要

 著者の中村仁一さんは老人ホームに務める医師。幸せに生きるために医療との関わり方を見つめなおそうと問いかける一冊です。

おすすめポイント

 「現代人は医療に期待しすぎである。老いた人が病気を完治させることは基本的にはできない。」との主張が繰り広げられます。治る見込みがないのに全身にパイプをつながれて延命措置を受けることが果たして幸せなのか。従来の考え方を覆す内容です。

感想

 若者の僕が読んだとしても得られるものは少ないのかなと思いながら読み始めた一冊。しかしこの本は医療の本であるだけにとどまらず、人生についての本であると僕は感じました。得られるものが多かったです。

医療について

 若いころにかかる病気ならともかく、繁殖期を終えた人間が患う病はもう治らないと著者は言います。だから、諦めよ。これがこの本の根底を流れる考え方です。この考え方にのっとれば、従来の医療に関する定説の中には間違っているものがある。

繁殖を終えて生きものとしての賞味期限の切れたわが身も顧みず、むやみに「健診」や「人間ドッグ」を受けて、病気探しをしてはいけません。医者の餌食になるだけです。だいたい、「早期発見」「早期治療」は、完治の手立てのある、肺結核で成功を収めた手法です。これを、完治のない生活習慣病に適用しようとすることに、そもそも無理があります。 

 あれだけ巷では検診に行くことが勧められているのに、この主張が堂々とぶち上げられます。そもそも、長く生きることが本当に幸せなのかというところから著者は疑問を呈します。

長寿社会といわれますが、いいことばかりではありません。一面、弱ってもなかなか死ねない、死なせてもらえない"長命地獄社会"でもあります。 

 口から物が食べられなくなっても、呼吸ができなくなっても、心臓が動かなくなっても現代の医療ならなんとか命を繋ぐことができてしまう。でもそれは果たして幸せなのかと、実例を交えながら著者は問いかけます。意識のない人の延命治療を望むのは、倒れる前に孝行できなかった家族のエゴなのではないかと。倒れてから医者に泣いてすがりついても遅いのではないかと。

 自分が看取る側になる日がいつかやってきます。そしてその先に、自分が看取られる番がやってきます。必ずどちらの立場も経験することになります。そんなとき、医療がどのような形で関わってくるのか、自分たちが医療とどのような距離の取り方をするのかは、常日頃から考えておいて損はないテーマでしょう。

死生観について

 延命治療の話になると、どうしても「死」にばかり目がいき、暗い話になってしまう気がします。家族と話し合いたいとも思えません。ですが、肝心なのはそこではないと著者は言います。

巷間、問題にされている「安楽死」「尊厳死」は、どうも「死」の部分だけを強調している気がしてなりません。大事なのは、死ぬまでの「生き方」なのです。 

 ぶっ倒れる日がいつか来るでしょう。その日までに、どう生きるか。生き方を考えれば、おのずと「死に方」にもつながってくる気がしますね。そして大事なこととして、死生観の話は、医療の話ではないのです。

また、死にかけの人間が医者にすがるのも、あまり感心しません。なぜなら、いかに生きるか、いかに死ぬかは人生の問題で、医療で解決できる問題ではないからです。 

 どういう死に方をするか、ということはどういう生き方をするかということです。だから、そこに医療が絡む余地は本来ほとんどないのではないかと僕も思うようになりました。しかし現実は、救急車を呼べば「ありとあらゆる延命措置を望んでいる」とみなされて、治療の限りを尽くされるそうです。それを避けるために、自分が倒れたときに延命治療を望んでいないことを、きちんと文書として残す方法があるということが紹介されています。そこまでしたいとは思いませんが、家族に迷惑をかけながら半死半生で長らえるよりは、できるだけ楽に穏やかに死んでいきたいものだなと思ってしまいます。

 延命治療をしない方が楽に死ねるらしい、ということも繰り返し述べられています。無理に酸素を取り込まない方が、意識がぼんやりして苦しくないとか、無駄に点滴で水分をとると逆につらいとか、そんなことが書かれています。信頼できるソースはないようですが、昔から人間は延命治療などせずに死んできたことを考えると、あながち間違いではないのかなとも思います。

終わりに

 医療がさらに発達して、ガンもころっと治ってしまう時代がもしかしたら来るのかもしれません。でもそれはきっとしばらく先のこと。その前にきっと自分の祖父母や両親を看取ることになるでしょう。絶対に逃げてはいけないテーマなのだと思います。できるだけ多くの人に読んでほしいのでBランクに入れておきます。

 

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医療をテーマにした小説といえば僕はこのシリーズを推します。