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【ナイキはいかに生まれたか】書評:SHOE DOG(シュードッグ)/フィル・ナイト

SHOE DOG(シュードッグ)

SHOE DOG(シュードッグ)

 

概要

 ナイキの共同創業者であるフィル・ナイトの自伝です。ナイキという会社がどのようにして生まれたかを、そして自身の人生を振り返る1冊になっています。

オススメポイント

 靴にかける熱い想いだけで、まったくのゼロから世界的なブランドを確立するに至った軌跡が書き残されています。並大抵の努力では叶わない境地を垣間見ることができます。

感想

 自身の人生を順を追って振り返る内容になっています。彼の人生はナイキの歴史そのもの。ナイキが生まれた経緯がゼロからわかる内容になっています。

 ビジネス書じみた説教臭さはありません。本当に淡々と時系列に沿って何が起きたかを語っています。翻訳がなめらかではない部分もあって、読み進めにくい方もいるかもしれません。

 綱渡りの連続で、商品の在庫や生産力の確保、そして資金繰りに関して次々に問題が立ち現われては、寸前のところで解決して切り抜けてきたことが書かれています。自分がこの立場だったらストレスでやられてしまいそうだなと何度も思いました。

 ですが、製品である靴が常に売れている商品だったことは彼が恵まれているところだったのだなと思いました。作れば売れるので、在庫や生産能力の確保が追い付いていなかったようです。ランニングシューズやスニーカーがちょうど時流に合っていたのが大きかったのでしょう。もちろん、オリンピック選手等を起用したプロモーションにも力を入れていたことが書かれています。

 仲間のことを書くために紙面を多く割いている印象もあります。仲間との出会い、どのような仕事を任せたか、そしてケンカをしたことなど。一人で成し遂げたことではないと感じているのでしょう。

 彼自身が陸上競技の選手だったこともあり、仕事そのものに非常に大きな情熱を持って取り組んでいたことがよくわかります。事業が苦しいとき、月並みですが、仕事そのものへの熱意はとても大事。こだわりが強く頑固で、自分の信じる道は譲らなかったのも印象的です。

 

 基本的には淡々と起きたことを振り返っていく内容なのですが、一節だけ、読者に宛てたメッセージがありました。それがとても心に響く内容だったので、長いですが引用しておきます。

 “ビジネス”という言葉には違和感がある。当時の大変な日々と眠れぬ夜を、当時の大勝利と決死の闘いを、ビジネスという無味乾燥で退屈なスローガンに押し込めるのは無理がある。当時の私たちはそれ以上のことをしていた。日々新たに50の問題が浮上し、50の即断を迫られていた。1つでも見切り発車をしたり、判断を誤れば終わるのだと常に痛感していた。

 失敗が許される範囲はどんどん狭くなる一方で、掛け金はどんどんつり上がっていった。しかし私たちが”賭けていた”のは”金”ではない。その信念が揺らぐことはなかった。一部の人間にとって、ビジネスとは利益の追求、それだけだ。私たちにとってビジネスとは、金を稼ぐことではない。

 人体には血液が必要だが、血液を作ることが人間の使命ではないのと同じだ。私たちの体内では赤血球や白血球、血小板が作られ、各部に均等に滞りなく時間どおりに送られる。そうした人体の営みは、より高い次元の目標達成に向けた基本的なプロセスだが、それ自体は私たち人間が果たすべき使命ではない。その基本のプロセスを超えようと常に奮闘するのが人生だ。

 勝つことは、私や私の会社を支えるという意味を超えるものになっていた。私たちはすべての偉大なビジネスと同様に、創造し、貢献したいと考え、あえてそれを声高に宣言した。何かを作り改善し、何かを伝え、新しいものやサービスを、人々の生活に届けたい。人々により良い幸福、健康、安全、改善をもたらしたい。そのすべてを断固とした態度で効率よく、スマートに行いたい。

 滅多に達成し得ない理想ではあるが、これを成し遂げる方法は、人間という壮大なドラマの中に身を投じることだ。単に生きるだけでなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそうすることをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ。

 ビジネスという言葉にも愛着が湧いてくるかもしれない。

 

 ビジネスとは無味乾燥なお金のやりとりではなく、他人の人生を充実させるべきもの。人間というドラマの中に、自分の身を投じる必要がある。デスクに向かっているだけではたどり着けないのでしょうね。

 BtoCの事業をやっていると意識しやすいだろうなと思いました。自分が作った靴を履いてくれる人の人生を想像していたのでしょう。僕はゲーム会社で働いているので、自分に置き換えるならば、作ったゲームで他人の人生を充実させるということになります。これはとても納得感のある目標で、ただお金を儲けたいと思うならゲームなんて作るべきではないと思っています。お客さんを楽しませることでお金を頂くのが基本ですが、「楽しませる」を超えて人生を豊かにできるかどうかに、ゲームの未来が掛かっているのかもしれませんね。

 

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品