【本物って何?】書評:豆の上で眠る/湊かなえ
概要
主人公結衣子が子供の頃に経験した姉の失踪事件を巡る物語。過去と現在を行き来しながら、姉の身に何が起きたのかという真相に迫っていきます。
オススメポイント
種明かしですべてが繋がり、すべてが崩れ落ちる衝撃の顛末でした。湊かなえさんらしい緻密に組み上げられた物語と、ダークな描写が光る作品です。
感想
結衣子が実家に帰るところから始まる物語。結衣子は過去に起きた姉の万佑子の失踪事件を追憶していきます。
万佑子がいなくなってしまう前、結衣子と万佑子はなぜか似ていないものの、仲良しな姉妹でした。姉を心から慕っているものの、姉を見つめる結衣子の視線は劣等感を帯びている。
神社で遊んでいたときに万佑子がいなくなってしまいます。それを境に、弱さをさらけ出す母。対照的に、あまり物語に出なくなる父。母が飼い猫のブランカを利用して結衣子に近所の家庭を探らせるエピソードは、湊かなえさんらしい、おなかにずんと響く黒さがありましたね。
そして合間に現在の時間軸で結衣子が地元に帰ってきている描写が入るのですが、自分と母と姉の関係性が良く分からなくなっている。これも1つの謎として伏線になっていきます。
失踪から2年のときが流れたある日、万佑子が見つかります。これでめでたしめでたしかと思いきや、本当の謎はここから始まります。本当に見つかった女の子は万佑子なのか、結衣子は違和感を覚えるのです。しかしDNA鑑定の結果は血がつながっていると示している。疑うと両親にたしなめられ、万佑子が猫アレルギーだったことからブランカとも離れ離れになってしまいます。結衣子の中にも、読んでいる読者にも、もやもやがどんどんたまっていきます。
そして最後の種明かしの場面。姉の正体が明かされ、結衣子が抱いていた違和感が正しかったことが証明されます。しかし、すべてが繋がった瞬間、いろいろなものが崩れ落ちてしまいます。せっかく真相にたどり着いたのに、逆に何が正しいのかわからなくなってしまう。この設計が本当にお見事で、僕は結衣子と一緒に膝から崩れ落ちたような感覚を味わいました。
結衣子が慕っていた姉は結局赤の他人で、本物の姉とは血がつながっているのに、思い出を共有していないということなります。DNAや本名といったものは頼りになりません。まさに、「本物ってなに?」という結衣子の問いかけに、僕は頭を抱えました。
とにかく、真実が明かされたときの落差がすごい作品でした。この落差を作るために、ここまでのストーリーが丁寧に紡がれていたのだとわかり、湊かなえさんのすごさを思い知ることになります。
布団の下に置いた豆のような小さな違和感に気づいてしまった結衣子は、絵本のお姫様のように幸せにはなれません。両親と姉に裏切られたという感覚を持ちながらこれからの人生を歩んでいくことになります。祖母が生きていればまだ違ったのに。湊かなえさんの描く救われない物語は、鋭く本質に迫ってきて、本当に救われない物語だなと思いました。
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