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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【合田刑事の転落】照柿/高村薫

照柿〈上〉 (新潮文庫)

照柿〈上〉 (新潮文庫)

 

概要

 「マークスの山」の続編、合田雄一郎警部補シリーズ第2作目です。今回は幼馴染の野田達夫をめぐるお話です。

オススメポイント

 じりじりとした転落劇の先にある衝撃の顛末と、その原因。合田の渋い魅力が全開の物語です。

感想

 マークスの山は山登りに関する記述が多かったですが、今回はほぼありませんでした。主人公の合田雄一郎と、彼の幼馴染の野田達夫の視点から交互に描かれる物語です。

 

 いろいろ問題を抱えながらもそれなりに上手くいっていた二人の人生が崩壊していく様を描いた重苦しいお話でした。優秀な刑事として活躍してきた合田と、家庭を守るため工場の工程長の仕事をしっかり勤めている野田。何も問題はなかったのに、ひょんなことから再会した二人の人生は、転落を始めてしまいます。

生活とは、自分が幸せだとか不幸せだとか意識しないで過ぎてゆく時間のことなのだ。

 何も意識せずに積み重ねてきた人生が、ふいに崩れていくのです。

 操作の一環として賭場で違法な賭け事を行う合田。賭博の描写はリアリティがありました。大金が動くスリルに感覚がマヒし、真剣勝負だと思ってしまうのでしょうね。胴元が勝つようになっているに決まっているのに。警察の権力を使って野田の勤める工場の重役に脅しをかけようと企てることもしました。どうしてしまったんだと問いかけたくなってしまいます。

 それもこれも野田の愛人である佐野美保子に惚れてしまったせい。幼馴染の野田に対する嫉妬も相まって、合田の判断力が変調をきたしています。野田の目線から見ても、この佐野という人物は得体のしれない女性として描かれていて、最後まで良く分からない人物のままでした。

 男性からみて女性という存在は、同じ人間とはいえどこか行動原理がわからないところがある。作者の高村さんは女性なのですが、男性からみた女性のそういう部分を描こうとしているのかなと思いました。

 

 クライマックスで登場した「未来の人殺し」というワード。合田が幼いことに野田に投げつけた小さなトゲは、野田の心に刺さって抜けていませんでした。伏線というわけではなかったのですが、この事件の原因がまさか合田にあったとは、という驚きに揺さぶられました。合田は愕然としたことでしょう。人に向けた悪意・敵意は、とんでもない形で跳ね返ってくることがあるのだなと冷や汗をかく思いで読んでいました。

 

 

 重厚な言葉遣いで、小難しい単語が連続することもあるのですが、不思議とするする読めてしまう文章を高村さんは書きます。雰囲気がよく出る。そしてリズムがとても良いですね。

 

 合田の過去が少しだけ掘り返される形となりましたが、まだまだすべては明らかになっていません。今後のシリーズでも語られていくのでしょうか。 

   

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品 

 

 

照柿〈下〉 (新潮文庫)

照柿〈下〉 (新潮文庫)