【実体験に基づく比較】書評:住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち/川口マーン惠美
住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち (講談社+α新書)
- 作者: 川口マーン惠美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/09/23
- メディア: 新書
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概要
前作の「住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち」が話題になりました。ドイツ在住30年の著者が日本とヨーロッパを様々な角度から比較します。
おすすめポイント
長く住んでいるからこその視点が面白かったです。それだけでなく、音楽や宗教、果ては奴隷制度までを論じており、非常に興味深い議論がちらほらありました。
感想
前作と勘違いして買ってしまいましたが、十分面白かったです。様々な論点が挙げられていますが、ここでは僕が面白いなぁと思った2点について書いてみます。
全体として日本を持ち上げまくる内容で、そこが鼻についてしまう人もいるのかもしれません。そういう本が売れる時代なのでしょうがないのかなぁと思いました。
歴史認識
歴史認識の違いから日本と中国・韓国の仲が悪くなっているとの文脈で、ドイツとフランスの関係が比較対象にされています。中韓の人々は、歴史を忘れる努力を怠っていると指摘。
『戦前、戦中のドイツ人は、加害者ではあるが、詳細を見るなら、終戦のころより後は、同時に被害者でもあった。いろいろ非道なこともされ、悲しい思いもしている。 しかし、それを語り継ぐとき、ドイツ人は、そこから個人的な感情を切り離す努力を惜しまなかった。悲しみは一人一人の心のなかに残っていても、「加害者を恨み続けろ」とか、「皆で加害者を探し出し、落とし前をつけてもらおう」という方向には決して行かなかった。悲しみとはなるべく距離を取ったほうが、気持ちが楽になるということを、ドイツ人はよく知っていたのだろう。』
感情を切り離し、事実だけを直視することができれば、戦争が生んだ負の感情が後世の子どもたちに伝わらずに済みます。悲しみとはなるべく距離を取る。大事なことですね。
『なぜ、和解が可能だったのか?それは、この両国が過去のことを忘却してしまったからだ。いや、正確にいうなら、次世代には史実を伝えるだけで、過去の恨みを語り継がなかったからだ。(中略) 史実は咀嚼しやすい。 子供たちは過去に囚われない。 彼らが過去に起こったことを史実として認識し、感情的になることをやめれば、将来の関係改善には大いなる希望が持てる。ドイツとフランスとの友好関係は、すべてを水に流すなどという刹那的なやり方ではなく、理性で勝ち取った関係だと、私は思っている。』
さらに大事なことは、すべてを水に流そうとしても良くないということでしょうか。なかったことにしようとしても、実際になかったことになるわけではないからですね。抑圧しようとするとどこかにひずみが出るのでしょう。だから、あくまで理性を使って、感情を排して、客観的な史実だけを伝えていくべきなのでしょう。
そうはいっても、歴史認識にはどうしても見る側の立場によって変わってしまうのではないかと思います。でも、それを実際にやってのけた例があるというのは心強いですね。日中韓の抱える問題も、時間がかかるかもしれませんが、教育から正すべきなのでしょう。
平等観・奴隷制度
平等という概念が日本とヨーロッパでは違う、という著者の主張は印象に残りました。
『現在の日本人というのは、どちらかというと、全員が大昔から同じような過去を共有して、今も同じような週刊誌を読み、何となくゆるりとつながっている。目下の敵も、所詮、同じ日本人なので、あまり叩くと自分に跳ね返ってくるかもしれないというような、同根の感情で束ねられているのが日本社会なのだ。 ところがドイツでは違う。それは暮らしてみるとよく分かる。』
日本で暮らしていると現状が当たり前のように感じますが、外国に出てみるとそうではないらしい。
『簡単な例を挙げるなら、ドイツには成長してからは公共の交通機関にはほとんど乗ったことがないという人たちがかなり多く存在する。別に、一番の上流でもない。中流の上ぐらいが、すでに自家用車と、せいぜい遠距離列車と飛行機にしか乗らない人たちだ。(中略)この異なった階層という観念がどこから出てきたかというと、それこそが古代から続いていた奴隷制度で、さらに、そこに覆いかぶさるように始まった、近世の植民地政策であるとわたしは思っている。どちらも、人間は平等ではないという認識に則った制度だ。』
そこそこの中流階級に当たる人々が公共交通機関に乗らないとは驚きです。僕自身も普通の暮らしをしているのでここで言う中流階級に当たると思うのですが、この感覚は理解できないですね。人間は平等ではないから、移動手段でさえも同じにはしたくないのでしょうか。
『日本人の考えでは、誰に教えられなくても、人間は何となく、みな平等なのだ。年功序列というヒエラルキーは明確にあるが、階級という観念は極めて希薄である。』
格差が広がっていると言われている日本社会ですが、奴隷制度や植民地政策の名残があるところでは根本から考え方が違うのですね。もちろん科学的な根拠があるわけではないと思いますが、勉強になりました。年功序列というのはどんな人でも年を取れば敬われるわけですから、すごく優しい制度だなぁと思いました。