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本と本の意外な「つながり」ってありますよね

【29歳独身女性の8つのリアル】書評:29歳/山崎ナオコーラ他

29歳 (新潮文庫)

29歳 (新潮文庫)

 

概要

 「29歳の女性」を主人公に据えて書かれた8人の作家による8本の短編集。いわゆるアンソロジーです。そのまんまストレートなタイトルです。

おすすめポイント

 作家さんは全員女性。リアリティあふれる作品が並びます。突拍子もない設定の作品はひとつもなくて、同じ世界できっとこんなやりとりが交わされているのだろうなという気分になります。

感想

 それぞれの短編の主人公はみんな独身。30歳を目前にして独身の彼女らには、生き方が少しだけ不器用です。この設定だけで不愉快に思う人もいるかもしれませんが、どの作家さんもそういうイメージを持ったのでしょうね。どことなく似通っている主人公もいました。

 仕事は今まで頑張ってきた。だから、そろそろ結婚したい。そう考えている主人公が多かったですね。もちろんそうではない主人公もいました。いろんな主人公が考えていることを眺めることになるので、29歳独身女性に世論調査しているような気分になりました。みなさん、どんなことを考えていますか?って。

 男の僕からしたら、やっぱり遅くまで売れ残っている女性には相応の理由があると考えてもよろしいのでしょうか。昔はクリスマス(25歳)を過ぎたら売れ残りなんて、言われていた時代もあったようですが、閾値となる年齢がだんだん上がっているのかな。もしかしたら今は30歳過ぎてから結婚するのも全然普通になっているのか。ガキの僕にはまだ分かりませんね。

 

私の人生は56億7000万年 - 山崎ナオコーラ

 キャリア志向を持ち合わせていない、日々ゆるく働く女子達の日常を描いた作品。なにか新しいことをやりたがる留美子と、本が好きという想いを大切にしているカナ。リアリティあふれる会話。ブッダがなぜ登場するのかはよくわかりませんでした。この手の短編集には恋愛の話が多いのかなと思ったのですが、女友達とのやりとりだけで進み、恋愛要素はほぼなかったです。

「でも、前はそんなこと思ってなかった。『三十歳近くになったら、若く見られたくなるんだろうな』と思ってた。でも全然だね。若く見られると、がっかりする。見た目さえも大人になれてないんだなって」 

「そう。生き方だとか、やってることだとかが、拙いっていうのはね、わかってるんだけど。でも、大人になりたいし、大人に見られたいんだよね」 

 30歳はもう立派な大人になっているのかなと思っていたのですが、案外そうでもないらしい。

 

ハワイへ行きたい - 柴崎友香

 こちらものんびり働く主人公。日々こんな仕事をしていていいのかとモヤモヤする気持ちを抱えている。ちょっと地味なお話でした。

そういうのに比べたら、わたしが毎日苛々してることなんか、ちりかほこりみたいなもんやん。わたしはわたしの仕事を必死でやってるけど、どんなに真剣に努力しても、達成されることってたいしたことない、人に言うたら失笑されるようなことやと思うと悲しい 。

 仕事がすべてではないと思いつつも、大したことない仕事しかできないのはつらいのです。 

 

絵葉書 - 中上紀

 他の作品とは一線を画するテーマでした。主人公は旅が好き。東南アジアとかにふらっと一人で行ってしまうタイプ。仕事を辞めて他人の夢に乗っかろうとするも、裏切られ、自分の本当の欲求を知った主人公。なにが一番幸せかを考えさせられます。

 

ひばな、はなび。 - 野中柊

 なかなか余韻の残る素敵な終わり方でした。元カレと決別し、子持ちのシングルファーザーとの恋がはじまる瞬間を描いた作品。なかなか珍しい境遇の恋ではありますが、恋する喜びは共感できます。主人公がいい人で、応援したくなりますね。

 

雪の夜のビターココア - 宇佐美游

 不倫はロクなもんじゃないなと改めて思う作品。主人公は不倫の恋と独身の恋をいろいろと比べます。不倫の恋はこうで、独身の恋はこうで、みたいな感じ。そこが面白いなぁと思いました。両者を比べたとき、女性を扱うことに慣れた妻子持ちの不倫相手には勝てないでしょう。そういう意味でも、不倫の経験がある女性とは付き合いたくないなぁと思いました。

 

クーデター、やってみないか? - 栗田有起

 のんびり仕事をしていた主人公がクーデターを企む専務に目をつけられ、会社を乗っ取る計画を打ち明けられる。仕事バリバリ系の女友達は、そんな出世のチャンスが羨ましいと言う。一方で主人公は、現在は専業主婦となっているその女友達の境遇が羨ましいと思う。二人の夢と現実が入れ替わってしまうこの構図はなかなかおもしろかったですが、あっさりと終わってしまいました。このギャップにもう少し踏み込むともっと面白そうなのになと思いました。

 

パキラのコップ - 柳美里

 主人公は観葉植物を売るお店の店員さん。思わぬところからお客さんとの恋が始まる。独特の文体で恋が一気に進む様子が描写されているのですが、あまり読者想いではないなあと感じてしまいました。早すぎてわけがわからなかったです。しかも結局は不倫の恋でした。主人公がぽわんとしすぎていて、大丈夫かよと心配になります。

 

憧憬☆カトマンズ宮木あや子

 コールセンターでベテラン派遣社員として働く主人公。正社員になるように上司に何度も誘われていますが、正社員になった方が給料が下がるので固辞している。ついでにその上司とは不倫している。しかし新しく転職してきた男と、音楽という共通の趣味から仲良くなり、不倫をばっさり終わる。なかなか痛快な話だった。これで結婚できたらいいですね。こーゆーふうな勝ち方もありだよなぁと思います。

 

 

最近、不倫の話をたくさん読んでいる気がします。