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【死の迷宮の謎】書評:螺鈿迷宮/海堂尊

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

 
螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

 

概要

 「チームバチスタの栄光」から始まる海堂尊さんの桜宮サーガ。今作の主人公は田口ではなく医学生の天馬大吉。時系列的には「ジェネラル・ルージュの凱旋」と「イノセント・ゲリラの祝祭」の間の出来事です。

おすすめポイント

 外伝だと思って侮るなかれ。重厚に組み上げた螺鈿迷宮の謎が読者を待ち受けます。天馬は果たして真相を解明できるでしょうか。

感想

死と女と螺鈿

 医療は死に向かう生物を生の側に引き戻す作業です。だから医療小説であるこのシリーズでは生と死が交錯する様子が何度も描かれていますが、この作品では死の側が強く印象に残りました。物語の舞台である桜宮病院は終末医療に関して先進的な取り組みを実施していて、患者を働かせることで人手不足を補うと同時に生きがいを与えるというシステムができあがっています。ひょんなことからこの病院に潜入調査をすることになった天馬は、次第にこのシステムの闇の部分を見ることになります。

意地悪な見方をすれば、患者の余剰労働力の搾取だ。ただし病院も税金等を支払うだろうから、一概に搾取とは言い切れなさそうだが。見る角度で様変わりする碧翠院は、まるで螺鈿細工のようだ。 

 天馬が潜入してから不自然に急増する患者の死。皮膚科医を装って白鳥が潜り込んできて、事態は動き出します。謎を散らかす部分が長くて少し焦れったかったですが、終盤の怒涛の流れはお見事でした。非常にスリリングでした。

 主人公はいつもの田口ではないですが、天馬もキャラがはっきりしていて彼に共感できます。ふわふわした根無し草体質で、弱った子犬のように女性たちにかわいがってもらえる存在。幼なじみの葉子、桜宮病院を仕切る小百合とすみれの双子姉妹、そして氷姫こと姫宮ら物語の骨格を作っているのは女性であり、彼女らと天馬の距離感がそれぞれに描かれていきます。

 冒頭で天馬が書いた原稿は修辞が効きすぎていると葉子にダメ出しされるシーンがあります。そこと繋がっているのかは定かではないですが、今作はやたらと装飾された言葉で物語が綴られていきます。メインテーマに据えられた終末医療と、ハーレム状態の天馬のミスマッチが、綺麗に彩られた文章で浮かび上がります。アンバランスで独特な世界でした。

銀獅子の遺言

 桜宮病院のボスである桜宮巌雄は強い男でした。このシリーズにおいて今まで無敵を誇ってきた火喰い鳥白鳥が、負けを認めるとは新鮮で驚きでした。また、巌雄から医学の真髄を見せつけられた天馬が、今後どのような医師になっていくかも楽しみです。

おい、そこのできそこないの医学生、これが最後だから、耳をかっぽじいてよく聞けよ。死を学べ。死体の声に耳を澄ませ。ひとりひとりの患者の死に、きちんと向き合い続けてさえいれば、いつか必ず立派な医者になれる。 

 天馬は輝天炎上にて再登場しているらしいので機会があれば読んでみたいと思います。また、白鳥もアドバイスをもらっていました。

大きなことをやりとげるなら、薄暗がりに身を潜めろ。ワシには桜宮の血脈にこてんぱんにされたヌシの、未来の泣きべそ顔が見える。そうなりたくなければ鉈になれ。剃刀ではダメだ。これでもワシは、ヌシには期待しとるんだ。

 なんでカミソリではダメなのでしょう。なぜ鉈なのでしょう。よくわかりませんが、今後の伏線になっているのかな?注意しながら以降の作品も読みたいと思います。

 

 

チームバチスタシリーズ