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【人間が凍眠できるようになったら?】モルフェウスの領域/海堂尊

モルフェウスの領域 (角川文庫)

モルフェウスの領域 (角川文庫)

 

概要

 チームバチスタの栄光からスタートした海堂尊氏の「桜宮サーガ」の中の1冊。様々な医療技術・医療問題にスポットを当てる今作において取り上げられているのは人工凍眠。SFチックな近未来技術ですが、もしそれが実現したとしたらどのような物語が考えられるかを、あくまで現実的に描いた作品になっています。 

おすすめポイント

 人体を数年間凍眠させることができるとしたらどのような問題が起こるでしょうか?また、冬眠した人に関わる人々の感情はどのように揺れ動くでしょうか?海堂氏ならではのロジックで、海堂氏ならではのストーリーが展開されます

感想

 人体を凍眠させるという技術が今後数年で開発される見込みは薄いでしょう。海堂氏もそれはわかっているのだと思います。そんな状況でも、このテーマに真正面から挑んだ勇気にまずは賞賛を送りたいと思います。(物語と物語の間で登場人物の年齢設定が合わなくなってしまったという凡ミスから生み出した作品でもあるらしいですが)

 病気の治療法が今後確立される見込みがあるので、人体を凍眠させてその時を眠って待つことができるとしたら。本人の純粋な願いとは裏腹に、様々な人間の思惑が絡みあい、ミステリーとなって物語は進んでいきます。

 他の海堂氏の作品でも良く見ますが、ミステリー作品にするためにわざとストーリー進行をややこしくしている面があって、こういうやり方が本当に好きなんだなあと内心苦笑しながら読み進めていました。物語に起伏ができてドキドキするのですが、謎解きをあいまいなままにすると混乱するので、きっちり落とし前を付けてほしい所です。

 主人公涼子に対して曾根崎伸一郎に投げかけた「モルフェウスをひとりにしてはならない」という言葉。それに対する涼子の答えは「自分自身も凍眠すること」ということでよかったのでしょうか。そうすることで、時限立法である凍眠8則の効力が切れないため、涼子が眠っている間にモルフェウス佐々木アツシの人権を守るための作戦を実行できる。自分はそんなふうに捉えているのですが合っているかはわかりません。続編「アクアマリンの神殿」も読んでみようと思います。

 シリーズの本筋の主人公である田口が出てくるので、外伝の中では比較的本筋に近い作品でした。特に、「ナイチンゲールの沈黙」から続く話が多かったですね。ダジャレでインパクトを残す佐藤は「ジェネラルルージュの凱旋」から登場だったかな?曾根崎伸一郎もいろいろなところで出てくる名前ですが、自分は「ジーンワルツ」の主人公である曾根崎理恵の夫という印象が強いですね。

 チームバチスタの栄光が面白かったので踏み入れた海堂尊氏の世界。どんどん文庫化されるのでがんばって読み進めているのですが、まだまだ先は長いです。読んでいない作品がわんさかあります。思ったよりも深い沼のようです…。

 

 

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品