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【現代社会を作った究極の要因は?】書評:鉄・銃・病原菌/ジャレドダイヤモンド

概要

 現代社会を形作った究極の要因はなんだろうか。極めてシンプルで難しい問いに、鮮やかな答えを提案する歴史学の名著です。

おすすめポイント

 とてもわかりやすく書かれており、途中で迷子になってしまうということがありません。極めて科学的な研究結果でありながら、一歩一歩踏みしめるように結論へと近づいていく最高のミステリーのようだとも思いました。名著と言われるだけはあります。

感想

人類社会の歴史を理解することは、歴史がさほど意味を持たず、個体差の少ない科学分野における問題を理解するよりもはるかにむずかしいことだといえる。それでも、すでにいくつかの分野では、歴史の問題を分析するのに有用な方法論が考え出されている。その結果、恐竜の歴史、星雲の歴史、そして氷河の歴史は、人文的な研究対象としてではなく科学的な研究対象に属する分野として一般的に認められている。しかも、われわれは人間自身に目を向けることによって、恐竜についてよりも、人類についての洞察を深めることができる。したがって私は、人間科学としての歴史研究が恐竜研究と同じくらい科学的におこなわれるだろうと楽観視している。この研究は、何が現代世界を形作り、何が未来を形作るかを教えてくれるという有益な成果を、われわれの社会にもたらしてくれるだろう。

 上記はエピローグからの引用です。ここにある通り、歴史を文系に属する分野としてはなく、理系に属する分野として科学的に分析している本です。

 現代社会において豊かさを存分に享受している人々(主に欧米圏)と、そうではない人々に大きな差が生まれている究極の要因はなにかという問いを追い求める壮大な研究を解説した一冊です。

 結論はとてもわかりやすく、「ユーラシア大陸は東西に長い大陸のため農作物・家畜・文字などの文明・発明や技術全般が伝搬しやすく、アフリカ大陸や南北アメリカ大陸は南北に長いため伝搬が容易に進まず、ユーラシア大陸に遅れをとったこと」とまとめることができます。このまとめは著者の言葉ではなく、この本を読んで僕が理解したことを自分の言葉でまとめたものです。自分の言葉で結論を端的に書き記せるぐらい、結論に納得感をもたらしてくれる本でした。

 上記の結論に至るまでに、様々な分析を丁寧に組み合わせ、あらゆる可能性を吟味し、想定し得るあらゆる批判に対して反証を提示しています。お見事としか言いようがありません。このように極めて理系的に論を展開しているのにもかかわらず、謎を解き明かす過程は推理小説のようにスリリングでした。

 そしてあとがきまで読んで気付いたのですが、この本が記されたのは1998年というのが驚きでした。20年も前に提示された理論がいまだに覆されず、名著として語り継がれているのです。長い年月による淘汰にも負けなかったということで、いかにこの本が優れているかがわかるのではないでしょうか。ボリュームはありますが、ぜひ一度は読んで頂きたい傑作でした。Aランクのおすすめ本に認定です。

 

 

 

僕のオススメの本はこちらにまとめています。

A. 誰にでもおすすめできる/是非読んで欲しい作品

B. 大多数の人が面白いと思うはず/この作家さんが好きなら絶対読むべき作品